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[609]桐箪笥

箪笥(たんす)は日本の伝統的な家具で、なかでも桐で作られた箪笥は収納する道具として優れたものです。昔は家に女の子が生まれると庭に桐の木を植えたといわれます。ちょうどその女の子が嫁入りする時に、庭の桐で箪笥を作り嫁入り道具として持たせる風習です。今ではそういうことは稀ですが、それでも桐箪笥は嫁入り道具として欠かせないものです。

桐の木は、成長が早く木目がまっすぐで精密な加工に向いている木材です。細胞が密であるにもかかわらず柔構造なので軽く、しかし水や熱を通しにくいという性質が箪笥という収納家具にぴったりというわけです。火事に強いといわれるのも、表面は焦げても中まで熱を通さない木質によるものです。

和服の収納には絶対必要な桐箪笥ですが、桐といってもピンからキリまであり、本当に「桐の箪笥」といわれるものは「総桐」に限定されます。値段も高いです。価格を下げるために、正面と両脇を桐で作り後ろの面を杉材などで作った箪笥は「三方」といわれ、後ろの面まで桐のものを「四方」といいます。四方であっても総桐とは限らず、ひきだしの底面は杉材であったりします。

桐の箪笥は削り直しがききますが、それは総桐のものに限ります。ご家庭の桐箪笥が総桐であるかどうかは、ひきだしを抜いてみて、箪笥の奥裏側とそのひきだしをぐるりとひっくり返してみてください。全部桐でできていれば(同じ材質に見えれば)総桐で、親子代々使えます。引出しの底が他の材質と違って赤い色をしていたら、残念ながら総桐ではありません。

さて、それでは家で女の子が生まれたら早速庭に桐の木を植えようなどと早合点しないでください。桐の木は10m以上の大木になりますし、根や枝葉が大きく張り出します。東京都内で植えたら必ず近所迷惑になります。桐の木を植えるのは郊外で広い庭があるお宅だけにしてくださいね。

なお、最近省資源をウリとして市場に出回ってきたファルカタという木材が有ります。これはマメ科の植物で木というより草に近いものなのですが、材質は桐そっくりで見分けがつきません。東南アジアより輸入しているもので早く土に還元するのでディスポーザブル素材として脚光を浴びています。ですが似ているとはいえ本桐にこだわる日本人には受けが悪いかもしれません。

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