5000万件もの公的年金の記録が紛失したとして世間は大騒ぎとなっています。テレビをつけてもこの話題を扱っていない番組が無いほど。この不祥事の対応に、時の安倍内閣はほとほと困り果てているようです。
とある番組で街行く人に年金問題を問いかけ、その答えとして「自分の年金が帰ってくるかどうかすごく心配」とこぼしている市民がいましたが、ちょっと待ってください。この人は根本的に年金の捉え方を間違えています。
公的年金は「貯蓄ではありません」から「かけたお金が戻ってくる」性質のものではありません。この年金は、決められた期間、保険料を納めることで、将来「年金を受給できる権利」のみを得ることができるものです。貯蓄ではありませんから利子もつきませんし、そもそも元本保証でもありません。100万円の年金保険料を払ってももらえるのは50万円かもしれない。公的年金とはそういう性質のものなのです。
公的年金は自分が年をとった時に、若者に面倒を見てもらうための互助制度であり社会保障の一環として作られた助け合いの制度なのです。これを考えたのは右肩上がりの成長が見込め、人口が増えていくことを前提とした今は65歳以上の高齢者の連中です。彼らは自分の老後の生活を安定したものとするためにこの仕組みを考えたわけです。じつに賢い。
一方で、今の若者はしらけちゃっています。自分らが払っている年金保険料、しかも働いていない学生でさえ20歳から払わせられる年金保険料でまかなっているのは今の年寄りの受給年金。自分が年寄りになったときには、年金をもらえる保証はありません。将来の社会情勢もきわめて不透明です。
それならば、年金保険料など払わず、こつこつ貯蓄したほうがましですし、年金の不払いがまかり通るのも当たり前です。しかし、今の制度では年金保険料は税金と同じ国民の義務。したがって不払いは脱税と同じ扱いとなってしまうのです。
今回5000万件の記録が紛失したとして、それが元通り照合したとしても、年金制度が変わってしまえばやはりもらえる年金は不透明です。たとえばこの際5000万件の記録は無かったことにし、新たに70歳になったら年間100万円の年金を国民全員に一律に支払う、という制度が立法で決まったらそれに従うしかありません。
記録紛失に大騒ぎする前に、すでに年金制度は崩壊しているかもしれないという認識とともに、若者が年寄りを互助するという現行制度を貫くなら、少子高齢化をまずどうにかしなければなりません。戦時中のように「産めよ増やせよ」的に人口増を仕掛けなければ、いずれ公的年金は破綻するでしょう。