以前、圧力を加えると100℃以上でも水は沸騰せず液体のまま、という臨界水の話をしました。深海の海底火山ではそういう状況が実際にあります。
ガラパゴス周辺の約2600mの深海では水圧は地表の何十倍もあり、マグマによって熱せられた380℃以上の熱水が、チムニーといわれる海底の煙突状の穴からに噴出してくる現象があります。
この熱水には二種類あり、熱水が黒っぽく見えるのがブラックスモーカー、白っぽく見えるのがホワイトスモーカーといわれています。噴出する成分が違います。
こんな熱水が噴出しているチムニーに生息しているのがマリアナイトエラゴカイという生物。釣り餌に使うゴカイの仲間です。マリアナイトエラゴカイは1mもある長い管に棲む管棲ゴカイで、このほかには殻長が30cmもある二枚貝(シロウリガイ)が生息していることが知られています。その大きさから、こんな深海にも栄養源があるのかと驚かされます。
これらの生物は、陸上の生物のように、酸素を吸って炭素を燃やしてエネルギーを得るという方法ではなく、熱水に含まれる硫化水素を酸化し、その際に発生するエネルギーを利用して有機物を作り、それを共生細菌に与えて自分の餌を作ってもらい、それを食べて生存しているのです。マリアナイトエラゴカイやシロウリガイは地球上で最も熱い場所に生息する動物といわれています。
これらの熱水に棲む生物は、熱いところが好きなわけではなく、自己を防衛する上で、敵の少ない熱水に生存領域を求めていったのではないかと考えられています。熱水付近には、その熱水に含まれる微生物がいて生態系を作り、ゴカイの餌となっています。
生物を形成するたんぱく質は通常40℃以上で固まり始め、それ以上の温度では生育できません。体温計が42℃までなのは、それ以上ではたんぱく質変質してしまうからです。しかしこれらのゴカイは80℃でも平気で生育している。この謎を解けば、熱い環境でも生きられる強いたんぱく質が発見されるのではないかと期待されています。