北米のマッキンリーには日本人登山家が立てた観測用のやぐらがあります。そのやぐらは「登山家のための登山のための風」の研究をする小さな気象観測塔の役目を持ちます。北米大陸(アラスカ)最高峰マッキンリーは標高6149メートル。やぐらは頂上ではなく400メートルくらい下がったところにあります。立てたのは大蔵喜福(おおくらよしとみ)氏。著名な登山家であり山岳ライターでもあります。
最高峰のエベレストではなくなぜ北米マッキンリーなのかというと、マッキンリーはジェット気流という「風」が直接あたる山で、風の研究にはもってこいだからです。ジェット気流は風速100メートル/秒を超える地球を巡回している風。マッキンリーは別名デナリと呼ばれその意味するところは「大いなる山」という。偉大な「風」と偉大な「山」が顔を合わせる場所に「やぐら」は立っているのです。
秒速100メートルを超える風に当ったら人間は立っていられません。それどころか飛ばされてしまうでしょう。何もつかまらず立っていられるのは大体秒速33メートルが限界だそうです。
奇しくも冒険家の植村直己さんが帰らぬ人となったのはこのマッキンリー。用心深く人一倍慎重な植村さんが遭難するということは普通では考えられないことでしたが、いまだにその原因はなぞに包まれています。しかし同じ山を知る登山家はこう推理するのです。原因は「風」ではないかと・・・
マッキンリーは寒気の通り道になっており、その最低温度はマイナス80度を下回る。これは極地でも高度の高いところでしか観測されない低温。ヒマラヤ等でももちろん寒いがせいぜいマイナス50度程度。マッキンリーは風だけでなく寒気もやってくる厳しい山なのです。
山で遭難する大きな原因は体温を奪われること。一番奪われやすいのは頭。脳の体温が奪われると意識が正常に働かなくなり大変危険です。登山は正確な脳の判断が運命を左右します。そのため頭の保温は特に注意しなければならないのです。
また体感温度というのがあり風速1メートルに付1℃体感温度が下がるという。つまり秒速100メートルのジェット気流をまともに受けたら体感温度は100度も下がる。通常では生きていることは不可能ということです。
一体植村さんに何が起こったか?想像することはできますが真実はいまだ謎のままなのです。