夏に生える雑草でカラスビシャクというのがあります。農道やあぜ道に生えるこの草は、蛇のように鎌首をもたげ舌を出したように見えますし、あるいはコートを羽織ったようにも見えます。この草は薬草としても利用でき、漢方では半夏(はんげ)と呼ばれます。暦でちょうど夏の半分頃「半夏」に咲くためにこのような名前が付いたのでしょう。ちなみに半夏は夏至(6月21日)と小暑(7月7日)の間、7月2日頃を言います。
カラスビシャクはコートを羽織っているような姿をしていますが、コートを羽織る植物は他にもカラーやミズバショウ、アンスリウム等があり、それほど珍しくはありません。このコートは仏炎苞(佛焔苞)といわれるもので、ちょうど仏様の背後にある炎のように見えます。
カラスビシャクはサトイモ科の植物ですから、地中深くにイモ(球茎)を持ちます。球茎の形は栗のようであり、茎を抜くとその部分が凹んで臍のように見えるため臍栗(ヘソクリ)といわれてきました。
茎が深くてなかなか抜けないので嫌われものの雑草ですが、この球茎は漢方薬には欠かせない生薬として結構高い値段で薬屋に売れたため、農家の人の貴重な副収入となったようです。内緒でお小遣いを貯めることをヘソクリというのは、このカラスビシャクにまつわる言い伝えが語源となっているようです。
ちなみにカラスビシャクはツワリなどの吐き気に対して薬効があります。1回に1.5~5グラムを煎じて服用しますが、半夏特有の「えぐみ」があり大変飲みにくい生薬です。そのためか生姜を加えて飲みやすくした漢方処方の小半夏湯が有名です。吐き気を鎮める作用のほかに、喉が腫れて痛むときや、腸が鳴って苦しいときにも用いられます。