棗(なつめ)とは果実の一種で、昔はそこここで普通に植わっていたようですが、最近は本当に見かけなくなりました。果物としてはやや地味なため、売れないこともあるのでしょう。しかしこの棗、漢方薬に使われるなど効用のある薬樹なのです。
棗の原産は南ヨーロッパおよぴアジア西南部。中国を経て日本に渡来しました。奈良時代にはすでに渡来していたらしく、万葉集の歌の中にその名が認められています。黒梅擬(くろうめもどき)科ナツメ属の植物で、初夏になって芽を出すことから「夏芽」とも書きます。花は4~5月ころに葉のわきにひっそりと淡黄色の小さな花を数個ずつ付け、秋には結実し熟すと暗赤色の実を結びます。
中国では、桃(モモ)、李(スモモ)、杏(アンズ)、棗(ナツメ)、栗(クリ)を五果と呼び、生活に欠かせない重要な果物として尊重してきました。いまでも副作用などが少ない漢方生薬として重宝されています。日本では生の果実として流通することは稀で、主にドライフルーツ、菓子材料として使われます。中国菓子の月餅には棗は欠かせません
熟した果実は生でも食べられますが、日干しにして乾燥してから蒸して、また日干しにし、生薬の大棗(たいそう)または黒棗(こくそう)に加工します。食用にだけ用いる場合は、夜露に当ててから翌日日干しにします。赤いので紅棗(こうそう)と呼びます。
棗は滋養強壮の効果があり、含まれる糖分は多く、カロリーも高く、蛋白質、脂肪、ビタミンも多く含んでいます。特にビタミンCの量は果物の中でも多く含んでいる部類に入ります。また棗は動脈を広げ、心筋収縮力を強める効果もあるようです。女性、特に妊産婦の方に必要な鉄分、カルシウム、亜鉛などを豊富に含むのも特徴です。最近では、花粉症の根本治療にも役立つとの研究もあります。
なお、その果実の姿が似ていることから、抹茶を入れるのに用いる木製漆塗りの蓋物容器も「棗」と呼ばれます。また常夜灯として照明器具に付けられる小さな電球も「ナツメ球」といわれますが、これもその形が似ているからです。