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[1016]バットグアノ

バットグアノという肥料をご存知でしょうか?園芸店でもあまり見かけませんが、これがなかなか園芸家・生産農家の間で評判が良く、珍肥といっていいものなのです。

バットグアノの「バット」とは蝙蝠(BAT=コウモリ)のこと。バットマンのバットです。よく間違えますがバッド(Bad)ではありません。全然悪くありませんし、それどころかすばらしい肥料なのです。

グアノとは珊瑚礁の島に、海鳥の死骸・糞・エサの魚・卵の殻などが数千年~数万年の長い期間にわたって堆積して化石化したものをいいます。バットグアノの場合は、洞窟の中に住むコウモリが出す糞や死骸などが同じように堆積したものをいいます。

海鳥とコウモリの違いこそあれ、グアノの生成には珊瑚礁が欠かせません。珊瑚礁の石灰成分が長い間かかって、死骸・糞に浸透し化石化するのです。海鳥はともかく、何でコウモリが珊瑚礁?と不審に思うかもしれません。しかしコウモリが生息する洞窟は、もともとは珊瑚礁が隆起し地表に出たあと、雨に浸食されて出来た鍾乳洞が多いのです。珊瑚礁と鍾乳洞はもともとは同じもの、親戚だったのですね。

さて、そのバットグアノですが肥料として質が高く効果が安定しているため観賞植物や自家菜園用の高級肥料として最適ですが、量があまり取れないため大変貴重なものとされています。価格も高いです。

バットグアノには「窒素質グアノ」と「燐酸質グアノ」があります。前者は降雨量・湿度の低い乾燥地帯に形成されたもので、窒素を多く含有します。後者は熱帯・亜熱帯など降雨量・湿度の高い地域に形成され、長年の降雨によって窒素分が流出してリン酸分が濃縮されたものです。肥料として珍重されるのは後者のほう。リン酸が多く含まれるからです。バットグアノもこのリン酸が多く含まれるので珍重されるというわけです。

ところで、肥料の三要素は「チッソ・リン酸・カリ」は小学校で習いますが、リン酸は別名「花肥(はなごえ)」や「実肥(みごえ)」とも呼ばれ、不足すると花や実のつきが少なくなったりします。花物の栽培や、収穫量が左右される果実や畑には欠かせない肥料成分です。

しかしリン酸は土の中で固定化されやすくあまり移動しないため、根っこのそばのリン酸が消費されてしまうと、それっきりになってしまうことが多いのです。また関東ローム層など火山灰土由来の赤玉土や鹿沼土はリン酸を吸着してしまうためリン酸を継続的に施肥する必要があります。

今までのリン酸肥料としては鉱物資源のほか、骨粉が良く使われていましたが、バットグアノに含まれるリン酸は「ク溶性リン酸」という特殊な形式のリン酸のため、大変吸収されやすいという性質があります。

リン酸はそのままでは吸収されにくいものですが、マグネシウム(苦土)を与えることにより相乗効果で吸収されやすくなります。マグネシウムには根が自ら分泌する「根酸」というクエン酸を増やす作用があり、このクエン酸は溶けにくい養分を溶けやすい形にする働きがあります。

バットグアノに含まれるク溶性リン酸、ク溶性ホウ素は「クエン酸で溶ける」という意味です。つまり根に触れることによって吸収するリン酸、ホウ素という意味です。バットグアノにはもともとマグネシウムも多く含まれていますので、これらク溶性リン酸。ホウ素をよく溶かし吸収しやすい特長があるのです。

現代ではリン酸は鉱物資源により確保できますが、燐酸鉱物が発見される前まではバットグアノは貴重なリン酸資源だったのです。そのため、このバットグアノをめぐって戦争までおきたくらいです。また発掘のために多くの人が奴隷として連行されるなど暗い歴史もありますが、それくらい貴重だったのですね。

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