[16]意識を変える

私たちは日常の生活で必ず手を使います。これまで、中心から末端へ力を伝える方法とか、腕自体を上げる方法とか、個別にお話ししてきましたが、問題はどのように意識すれば、手が使いやすくなるかです。以前話しましたが、体はその人が意識したとおりに動いています。意識し、イメージを作れば、これまでよりはかなり使いやすくなります。そこで、意識を作る上での一つのサンプルについて話しましょう。
例えば、手で何かを押すときに、あなたはどう動きますか?右手で押そうとしたときには、右足を後ろ、左足を前にして、右足で踏ん張って押します。では、引くときには?左足でも、右足でも前に出している足で踏ん張って、後ろに引きます。この動きで通常動いているはずです。この動きは、子供の頃からこのようにすると動かせたと言う経験から導き出された「動き」です。このときにどこを意識しているのでしょうか?私は、腕に掛かる力を意識しているのではないかと思います。腕に掛かる力が大きいほど、沢山の力を出していると思いこんでいます。この腕に掛かる力は、動かそうと思っている物からの抵抗する力です。
これまでお話ししてきた「動き」の中に、動かそうと思っている物から、逆に自分の身体に抵抗する力を感じる動きはありません。どうしてかと言うと、自分の身体全体の重さを同じ方向に動かす動きだからです。つまり、前に押すなら身体全体の重さが前に行き、引くなら身体全体の重さが後ろに行くのです。前に押すときに、足は後ろに蹴り、その反作用で物を前に押すのではなく、足も身体も腕も、全体が前に出る動きなのです。
もっと訳が分からなくなりましたか?具体的に説明します。立っている時に、大腰筋を使える姿勢を思い出して下さい。両方の下肢を伸ばしたままで前に上げる感覚になる、でしたね。さらに前に上げようとすると前に身体を屈曲させる姿勢になります。単純に言うと、これが前に押す力になります。右手で物を前に押すときに、右足を前にして右下肢全体を前に上げようとします。押すために腕を伸ばす必要はありません。そのまま、下肢を上げる力を強くしていって下さい。左の足で地面を後ろに蹴らなくても、前に押す力が生まれます。物を引くときには、下肢全体を後ろに動かすように力を入れて下さい。身体全体で後ろに引く力が生まれます。
つまり大腰筋を使う姿勢であれば、動かしたい方向そのままに下肢を動かせば、その方向に力が発生するのです。身体を捻らなくても、その力が出るのですから、身体にかかる負担はほとんどなくなります。
岸 元(きしはじめ)

Follow me!