[009]ジェネリック医薬品 -ジェネリックの普及はなぜ進まないか その1-

前回、日本政府は医療費を削減しようとジェネリック医薬品をもっと普及させようとしているとお話しました。そもそもなぜ日本ではジェネリックの普及が進まないのでしょうか?それには下記のような要因があると思われます。
1.健康保険制度と被保険者の意識の問題
2.薬価や政府の規制の問題
3.薬を処方する側(医師、薬剤師、病院)の問題
4.流通、在庫管理などの問題
5.ジェネリック製造会社側の問題
それでは1の問題からお話ししましょう。
日本の健康保険制度では、被保険者である患者が医療費の一部のみを負担することになっています。老人と子供(一部の自治体で実施)を除く一般の被保険者は、基本医療費の3割のみの負担ですみます。70歳以上の高齢者にいたっては、1973年から2002年までは負担分はゼロ、2008年からは1割、2010年度からは2割で、さらに課税所得が145万円以上の高齢者には3割の負担を求めるように最近改正されました。
実際問題、医療保険を一番使うのは高齢者です。ですが日本の健康保険制度では、一番医療費を使う高齢者は長らく患者の負担分がゼロでした。医療費は、医療機関が保険組合に請求するしくみですので、患者は自分が全部で医療費としていくら使ったのかわかりにくい構造になっています。これが例えば、一度自分で全額支払って、後から還付を受けるシステムであればコスト意識は全く違うものになっていたでしょう。
一般患者の場合も同じで、医療費の7割は医療機関が保険組合に請求するわけですから、現在でも実感としてどのくらいの医療費をつかったのかわかりにくい構造には変わりありません。加えて現在のシステムでは、医療機関が多少の水増し請求をしたとしても、ふところがあまり痛まない被保険者は明細をチェックせず、気づきにくいかもしれません。
日本では伝統的に医療現場で医師の発言力が強く、年配者ほど医師がどんな診断を下したのか、どんな処方をしたのか、質問したり意見を求めたりしません。「医師の診断に意見をするなんてとんでもない」という発想でしょう。この医師に言われるがままのシステムも、患者本人による医療費のチェック機能をマヒさせる一因です。
医療経済学では、「モラルハザード」(Moral Hazard)という言葉があります。これは被保険者が、保険があるために必要以上のサービスを求めてしまい、結果として医療費の高騰を招くという現象です。
例えばあなたが風邪をひき、医師の診察を受けたとします。医師は、「すでに治りがけなので、ジェネリックの1錠15円の解熱剤を2日分出します。あとは十分休養すれば治りますよ」と、言ったとします。あなたは納得しますか?少しでも良い薬(=普通の人は高くて新しい薬と思い込んでいる)を処方して欲しいと思いませんか?「ジェネリックではなく、新薬で1錠100円のものを1週間分下さい」と、言う人もいるかも知れませんし、「どうしてインフルエンザのテストをしないのですか?」と、検査を求める人もいるかも知れません。使いもしないのに、うがい薬その他の薬を要求したりしないでしょうか?
皆保険下で、かつ出来高制の医療報酬システムでは、どうしても必要以上に高いサービスになりがちです。日本の保険制度では、モラルハザードをチェックする機能がありません。患者だけでなく、医師や病院が利益率の高い薬を故意に長期間分処方したり、必要のない検査をするといったモラルハザードも起こりえます。特にそれが全額保険から医療費が還付される高齢者の医療ではなおさらでした。
ジェネリック医薬品は以前からあったのですが、日本では患者、医療従事者の両方で選択してこなかったと言えます。ですが現在の健康保険組合はどこも破綻寸前、これから益々高齢化が進む中、医療費の削減と保険制度の見直しは民主党でなくとも避けては通れない課題なのです。
城戸 佳織

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