[005]日本の健康保険制度を知っていますか?その3

前の2回で被雇用者保険と国保の保険料について解説しました。実際に保険料を計算してみると、同じ条件でも国保では自治体によって保険料にかなりの差があることもわかりました。
それでは被雇用者保険と国保あるいは公務員等が加入する共済等を比べるとどうなるのでしょうか?これは計算方法が違うこともあり単純な比較は難しいのですが、前述の40歳、年収600万円の人が会社勤めをしていれば、保険料算定の基準となる年収もやはり400万円 (普通はそれ以下)として、その40/1000が保険料としても年間16万円です。これは国保に比べると半分以下の金額ですね。
日本の保険料の話を始める時、会社員から個人事業主になって健康保険料が高くなって驚いたとお話しましたが、まさにこの金額の違いが愕然とした理由です。
通常、会社勤めをやめても、辞めてから2年間は会社勤めをしていた時に加入していた保険組合に継続して加入することができます(任意継続)。ただし任意継続の場合は半分会社が負担していた保険料をまともに払わなければならないので、会社勤めをする時の2倍の保険料を払わなくてはいけないのです。
私が以前の会社を辞める際、人事部の同僚が、「東京都の国保の保険料を計算したら任意継続するより安いみたいだから、国保に加入したら?」と、親切に教えてくれたのですが、いかんせん私は東京都に住所はなく(彼女はたぶん他の自治体も大して変わらないと思っていたに違いない)、自分の住んでいる自治体の国保の保険料を計算したら任意継続の1.5倍以上の保険料だったと言う訳です。(つまり東京都の国民健康保険料は他の自治体に比べかなり安い)
ここで問題なのは、私の場合は進んで自由業になったので高い保険料を払うのは仕方がないのですが、非正規労働を余儀なくされ、社会保険に加入できない人が増えているという事実です。非正規労働が増えてきたのは、簡単に解雇しやすいという調節弁の役割を労働者に担わせる目的もあるのですが、雇用者が年金や保険の負担を軽減できることも理由の一つと思います。それに最近の不景気も手伝って失業して国保に加入せざるおえない人も増えているでしょう。会社を突然クビになり、収入もないのに会社勤めをしていた頃の2倍、3倍の保険料を払うことになったら、誰だって戸惑うのではないでしょうか?


自治体の国保は何故高いのでしょうか?不払いの人の分を見越しているため高いとも言われています。国保は所得税等の滞納の場合と違い、よっぽどのことがない限り滞納しても差し押さえなどの措置がありません。また各自治体で運営されているため、他の自治体に引っ越してしまうと滞納分徴収しないまま終ります。国保の滞納の罰則を強化することも重要ですが、他の健康保険料との格差を是正することも重要と思います。実際問題、雇用者保険に比べ、同じ所得でもこんなに保険料が違うのでは、健康保険料の滞納が増えるのもうなずけるのではないでしょうか?そして滞納者が増えると保険料がさらに上がるという悪循環に入ります。
個人的にはそろそろ保険を各会社や自治体でばらばらに運営するのではなく、国単位で一括管理してもよい時期に来ているのでは?と思っています。今はそれこそ個人データもコンピューターで、例えば1県分まとめて一箇所で集中管理等が可能ですし、データの管理も集約した方が、いろいろな保険組合でバラバラに管理するよりコスト的にはずっと負担が軽減されるはずです。
ただ、保険料金の統一というのは簡単な話ではないのかもしれません。人は皆、既得権を守りたがります。例えば今まで年収600万で、健康保険料が年間12万円だった公務員が、他の保険料との格差を是正することになったから、来年から2倍の保険料を払いなさいといわれたらYesとはなかなか言いがたいものです。と言うより、きっと大反対でしょう。たとえそれが、国民健康保険負担者の半分以下の金額だとしてもです。
ただ公的保険はどこの国でも保険料徴収だけではもちろん運営できておらず、税金からの拠出が多いので、政府としては全体的に低い保険料で統一して、税金からの拠出を多くするという手もあるのかもしれません。ですがその場合、結局財源は税金なので、今まで多く保険料を払っていた人が安い保険料に統一されたとしても、別の形での税金の支払いが増えるので、税金を負担する立場の人間としては、なんら変わりはないのですが。
そういえば今年に入ってからのニュースで、新しい高齢者医療制度案として、原則65歳以上は国保に加入するという案が出されました。これも自治体によって差があるので問題では?という話になっています。ですが65歳以上は一部の富裕層を除き大体年金生活者ですので、金額的にも現役世代ほど保険料の差はないでしょうし、たいした問題ではないと思います。問題は退職者より現役世代なのですが、実際ほとんど注目されていません。
そういえば以前、後期高齢者保険(75歳以上が加入する保険)の保険料を年金から天引きするしないの問題が、ずいぶんとメディアで取り上げられました。現役世代は会社員なら有無を言わさず給料から天引きされますが、(反対している人を見たことがありません)同様なことを75歳以上で行おうとした厚生労働省は、なぜあんなに非難を受けたのでしょう?天引きに反対した人たちは、結局保険料を払う気がないということだったのでしょうか?どうせ払うべきものであれば天引きされた方が便利だと私なら思うのですが。今まで老人保健は無料だったので、なぜいまさらお金を払わなければならないのか?と、いうメッセージなのでしょうか?既得権と言うものはなかなか壊しがたいものなのかもしれません。
ここ数回保険料の話ばかりになりましたが、次回は保険と医療サービスの格差についてお話したいと思います。
城戸 佳織

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