[010]ジェネリック医薬品 -ジェネリックの普及はなぜ進まないか その2-

前回ジェネリック医薬品の普及が進まない理由の1をお話しました。今日は薬を処方する側(医師、薬剤師、病院)とジェネリック医薬品の関係についての例を一つご紹介したいと思います。
最近、大きな病院で診療を受けたことがある方はすでにお気づきかと思いますが、「電子カルテ」なるものが2000年代になって急速に普及しています。以前は紙のカルテに診察した内容を医師が書き込んでいた訳ですが、最近では紙のカルテに書かず、パソコンから直接入力する人も増えてきました。
紙のカルテは一定期間保存後破棄されてしまいますが、電子カルテは長期で保存が可能です。また他院に転院するようなときもデータをそのまま送ることができるので便利です。最近ではX線、超音波診断、あるいはCTの結果など、昔はフィルムで保存されていた内容も電子的に電子カルテに貼り付けて保存できるようになりました。しかも画像はズームしたり、回転させたりして細部をチェックすることも可能です。便利な世の中です。
前置きが長くなりましたが、電子カルテの普及は薬の処方にも大きな影響力を持っています。と言うのも、これまで医師は薬の処方をする際、自分の記憶の中にある薬しか処方できませんでした。この病気の時はこの薬を、大人だったら一日何mgまでOK、食後に服用等々全部覚えていたわけです。ですがどんなに優秀な医師でも、日本で使われているすべての薬とその用法はとても覚えられません。必然的に覚えている薬というのは、よく耳にする薬、目にする名前が多くなりがちです。製薬会社のMRと呼ばれる営業マンが、医師を頻繁に訪れては、「ウチの○○はよく効きます」と言って薬の名前の入ったペンやファイルなどを置いておけば、結構効果があったものと思われます。
ジェネリック医薬品というのは前にも述べたように、特許が切れた後に出てきたコピー商品なので、名前もオリジナルの薬に似ていて、実に紛らわしいものが多いのが現状です。しかも一つの薬に対するジェネリック医薬品は1つとは限らず、多いときは5-10種類くらいいろいろなメーカーから出ています。またさらにややこしいのは、薬によっては同じ薬なのに、同じ治療の目的に使えないことがあることです。
薬には、その薬を使ってもよい治療の内容(適用)が薬ごとに定められています。新薬として最初に薬が世に出てから、次第に適用が増えるのが一般的なのですが、ジェネリック医薬品では新薬の適用拡大に追いつかないことがあるのです。つまり新薬では認められている適用が、同じ薬のジェネリック医薬品ではないことがあるのです。しかも適応があるなしは、ジェネリックメーカーごとに違うので、さらに厄介です。
紙のカルテを使っていた時代には、ある薬に対してどんなジェネリック医薬品があるのか、またそれぞれの適用はどうか、よほど熱心にジェネリック医薬品を研究している医師以外わからなかったと思います。ですが電子カルテでは、使いたい薬の名前やキーワードを入れると、瞬時にその用法はおろか、新薬メーカーのブランド名(例えばバイエルアスピリン)、一般名(アスピリンの場合はブランド名=一般名)、化学名(アスピリンの場合はアセチルサリチル酸)、価格、これに対応するジェネリック医薬品の詳細が出てくるようになっています。
これが大学病院になると、病院で推奨しているジェネリック医薬品がどれか、また在庫状況がどうなっているかまで手に取るようにわかるのです。ですから患者にジェネリックを検討したいと言われても、「そんなの良く知りません」ではなく、「それでは○○か、××はどうでしょう?××は院内でも近くの調剤薬局でも手に入りますよ。これを使うと一ヶ月でいくらくらい安くなります」と、答えられるわけです。また電子カルテのそうした薬の情報は定期的にアップデートされるので、適用にタイムラグのある薬でも安心して処方できると言うわけです。
ジェネリック医薬品の営業マンが医師を訪れる回数は新薬より少なく、以前はジェネリック医薬品の名前すら知られることがなかったケースが多かったと思います。ですが電子カルテの普及により、ジェネリック医薬品は医師の間で急速に知られつつあると言えます。
さて、突然ですが「たまごや」さんのサイトでこのテーマの記事を書くことは今回で最後となりました。1月からの短い間ではありましたが、「たまごや」さんをはじめ皆様には大変お世話になりました。私自身、記事を書くことでこのテーマについて知らないこと、わからないことがたくさんあることがわかり、もっといろいろ知りたいという気持ちが強くなりました。今後は別のサイトにて継続していくことになりましたので、ご興味のある方は是非ご訪問下さい。
http://cuijia.blog129.fc2.com/
本当にどうもありがとうございました。
城戸 佳織

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