冷蔵庫に豆腐が一丁。これを冷凍庫で凍らせると凍り豆腐となる。いったん凍った豆腐は解凍してもあの滑らかさは戻らない。スポンジ状の豆腐となってこれを乾燥させることにより高たんぱくな保存食となる。生まれたのは高野山。これがご存知高野豆腐(こうやどうふ)だ。
高野山のお寺の小僧が豆腐を外に置き忘れ、翌朝、カチカチに凍り付いたものを溶かして煮て食べたのが高野豆腐の起源という。西日本では「高野豆腐」、東日本では「凍り豆腐」「凍み豆腐」「シバリ豆腐」「ツルシ豆腐」など色々な呼び名がある。
高野山で民間人が初めて高野豆腐をつくったのは宝永5年(l708)であると伝えられている。高野山一帯は標高900mの高地で、冬の夜間気温は氷点下5度~9度と高野豆腐を作るのにちょうどいい気温が得られる日が多く、また良質な水も豊富で、原料の大豆が年貢として豊富にあったことなど、高野豆腐づくりの条件がそろっていた。
高野山の山中には豆腐小屋が立ち並び、昼は火をたき豆腐を仕込み、夜は寒気で凍らせる。寒暖の差が激しい厳しい作業場であったと推測される。その後豆腐小屋は人工冷凍法に取って代わられ、昭和28年の大風水害によって残っていた豆腐小屋もすべて壊滅し、天然高野豆腐生産は終わりを告げた。
高野豆腐は出し汁で煮た素朴な、しかしな栄養は満点な食品。古き時代の豆腐小屋で働く人たちに思いをはせながら、冷凍庫で凍らせた自家製の高野豆腐で一杯いただくのも風流かな。