天然痘の予防接種、つまり種痘は1976年以降は行なわれていません。種痘は生後すぐに行ないますので、最後の種痘をした人は現在26歳。それより若い人は種痘の跡がないのです。年齢をちょっとごまかしている人は、この夏ノースリーブにはちょっと気をつけましょうね。
さて、天然痘は高熱や全身の発しんなどの症状を引き起こす悪性の伝染病。病原体はポックスウイルス科に属し、ヒト以外には罹りません。感染力がきわめて強く、ワクチン開発以前はこの病気の死亡率は30~40%と非常に高かったのです。
現に日本でも江戸時代の死亡原因の第一位はこの天然痘。醜悪でも好きだという表現に「あばたもえくぼ」というのがありますが、あばたというのは顔中にできた天然痘の痕跡のことだとされます。死亡率が高く、運良く完治してもそれくらい酷い傷跡を残したということです。
英国の外科医ジェンナーが我が子に初めて天然痘予防のためのワクチンを接種したのが1796年。最初に用いられたのは、純粋の天然痘ではなく、類似の牛痘ウイルスだったという。その後普及した「種痘ワクチン」は、牛痘ウイルスと天然痘ウイルスの雑種を使い、ワクチンとなる抗体を効率よく作るようにしたものです。
世界保健機関(WHO)は1967年から天然痘根絶作戦を始め、1980年にはこの病気が撲滅されたことを宣言し、その際に大半のウイルスは処分されました。現在残っているのは米防疫センターとモスクワのウイルス研究所にあるのみで、ここには研究用ウイルス計600株が冷凍保存されていました。
「ウイルスといえども大切な遺伝子資源」との主張もありましたが細菌テロ抑止の必要性が勝り、1999年6月の処分が合意され、天然痘はすべてこの世から抹消されたのです。
極悪のバイキンはこうして絶滅させられてしまったわけだが、良いことなのか悪いことなのかよく分かりませんが、何か釈然としないものが残ってしまいます。この地球上で、存在自体を抹消されるような不必要なものって果たしてあるのかなと。
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