[12]病棟日記-善良なるMさん-

小柄でモソモソ話すMさん。椎間板ヘルニアで神経が圧迫され右足が不自由だという。歩けるのだが痛みのオーラが全身から発している。車椅子を操り病院内は自由自在だ。よく玄関前の喫煙所に居る。肝心の回診のときいつも居なくてよく怒られている。
お子さんだろうか。またまに子供が奥さんと一緒にやって来る。小学生の男の子だ。奥さんが心配そうにしている。怒っているようにも見える。Mさんがグズグズ文句を言うのが不満なのだ。奥さんの前ではまるで子供のようである。このMさんどっかで見たことがある。そういえば私が入院したての頃、向こう側の病室に居た人だ。看護婦の噂によれば手術が嫌で一回退院したもののやっぱり痛みに我慢出来ず再入院したらしい。いかにもMさんらしい。
そのMさんが今、椎間板ヘルニア手術から帰ってきた。回復に向けてこれから長いリハビリが待っている。術後は個室を希望していたMさんだがあっさり却下された。もともと個室の入るほど重病ではないのだ。Mさんは大部屋で便の処理をされるのがイヤなのだ。だから個室を希望した。大便の処理といってもわずか1週間の辛抱だ。尿は尿管でとるから心配無い。
今、点滴の針を刺す位置で看護婦と揉めている。痛いというのだ。看護婦も譲らない。怒られている。どうもワガママな患者というレッテルを貼られているらしい。麻酔も効いていて手術も終ったと言うことで気が大きいMさん。それもあと数時間すれば麻酔が切れあっちが痛いこっちが痛いと騒ぎ出すだろう。喫煙者だからなおさらだ。頑張ってほしいと思う。家族共々これからが大変なんだから。
・・どうやら麻酔が切れてきたらしい。なにやらブツブツ文句を言っている。ウームうるさいな。やっぱりMさんは個室にして貰ったほうが良かったな。個室に入れるのは重病だからではなく、廻りの患者に迷惑がかかるからだとこのとき初めて納得した私であった。
たまごや
※1997年10月29日記述

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