[004]日本の健康保険制度を知っていますか?その2
前回は被雇用者保険(職域保険)についてお話しました。今回は被雇用者が失業したり、自営業になった時に加入する国民健康保険(地域保険)について書きたいと思います。
会社勤めをしていた頃は国民健康保険になじみがなく、この保険は国が運営しているものだと思っていました。ところが自分が加入する段になって調べてみると、市町村ごとに保険料が決められているということを知りました。さらには市町村の運営する保険の他に、国民健康保険組合というのも存在しており、特定の業種(医師、歯科医師、薬剤師、建設業等)に属する人は市町村の運営する国保か国保組合の保険かどちらかを選択できるようになっているのです。
ここでまた思い出していただきたいのは、保険の掛け金(プレミアム)の設定の原則です。地域保健であれば、保険を使うリスクの高い人口の多い地区は、より高い掛け金を設定しなくてはなりません。今、地方で過疎化や高齢化が問題になっていますが、どう考えてもそのような過疎や高齢化が進む自治体では、リスクの低い若者人口が多い自治体よりプレミアムを高く設定せざるをえないのではないでしょうか?また人口の多い自治体は母集団が大きくなることでリスクが分散されますが、保険料を払う人が10人しかいないような村で、1人が高額治療を受けると、とたんに村の健康保険は破綻するのではないでしょうか?
国民健康保険は、埼玉県越谷市が一般市民向けにはじめたサービスが全国に広がったという経緯があるせいか、現在でも各自治体が運営しているようです。ですが、「国保」と言いながら、実は運営しているのは国ではなく、掛け金も各自治体がそれぞれに設定しているのが実態です。過疎にあえぐ村々で、自治体だけで健康保険を運営するのは事務手続きその他いろいろな面で非効率的でしょう。どう考えてもせめて県単位くらいの規模で運営する必要があるのでは?と、思うのです。そういえば「公的医療保険の一元化」という言葉を時々見かけますが、「今のままではまずいのでは?」と、思っている人はたくさんいるということなのでしょう。
理論ばかりでは面白くないので、自治体によってどのくらいの格差があるか具体例をみてみましょう。国民健康保険の保険料は各市町村、保険組合ともホームページを調べることで簡単に確認することができます。とはいえ、一番知りたい高齢化や財政難に陥っている地方の市町村のホームページには情報がないのが残念です。そういう市町村では実際問題国保の被保険者自体があまりいないのかもしれませんね。
国民健康保険は住民税から計算する方法と、所得金額から計算する方法の2種類があり、自治体によってどちらかを選択しています。ここでは所得金額から計算する方法でみてみましょう。
ではまず例として、40歳独身、賃貸マンションに住む(固定資産なし)、税込み年収600万、経費等控除後の課税所得金額400万円のフリーランサーが、東京のベッドタウン東村山市に住んでいたらどうなるか見てみましょう。
<医療保険>
1. 所得割:(所得金額 – 33万円)X 4.0%
2. 均等割:22,000円/年
3. 平等割:12,000円/年
<後期高齢者医療支援分>
1. 所得割:(所得金額 – 33万円)X 1.3%
2. 均等割:9,400円/年
3. 平等割:設定なし
<介護保険料>
4. 所得割:(所得金額 – 33万円)X 1.3%
5. 均等割:13,000円/年
6. 平等割:設定なし
国民健康保険料は、以上のすべての合計額になり、年間298,620円となります。
また、最高額は各自治体とも全部あわせて69万円が上限です。また扶養家族がいる場合、均等割が世帯の人数分になり被雇用者保険のケースと異なってきます。
では同じ人が札幌市に住んでいるとしたらどうでしょうか?
ホームページに掲載されている計算式にあてはめると、同じ所得の設定でなんと年間605,259円になります。倍以上違うわけです。驚きですね。
それではこの人がフリーランスではなく、仮に札幌市に住む医師で、北海道医師国民健康保険組合にも加入する資格を持っているとしたら、どうでしょう?
同様に計算すると年額 225,020円となり、札幌市の運営する国保より随分と安くなりますね。健康保険としての価値は同じなわけですから、誰だってこの金額の差を知ったら国民健康保険組合に加入しますよね。一般的に国民健康保険組合は自治体が運営する保険組合より保険料が安く設定されています。
次に私が老後に暮らしたいと思っている憧れの宮古島市はどうでしょう?
同様に計算してみると567,800円となりました。宮古島市は上記の所得割、均等割、平等割の他、被保険者の資産の額も保険料算定の基準としています。例では賃貸マンションに住んでいる人という設定ですので、固定資産の分は計算に入りません。ですが宮古島で持ち家を持っていたら、その分に対しても保険料を払うことになり、もしかすると札幌市より高くなるかもしれません。
他には、若者の多く住んでいそうな千葉県浦安市326,930円、東京都昭島市290,725円と、どうも東京近郊は安い傾向があります。大阪市531,425円、京都市531,611円、神戸市690,000円(最高限度額:まともに計算すると858,486円!)、福岡市593,006円と、計算するうち札幌市や宮古島市は高くないのかもと言う気がしてきました。神戸市にも住んでみたいと常々思っていましたが、神戸に住むならサラリーマンか公務員がいいのかもしれません。
次回はこれらの数字について少し考察したいと思います。
城戸 佳織