料理というのは脱水の科学であります。脱水には火を使うのがいちばん簡単で、煮たり焼いたりすれば脱水される。加熱するのはもっとも簡単な料理です。
漬物は火を使わないで脱水する料理方法です。主役は塩、そして脇役は微生物。この脇役のおかげで色々な漬物の味が楽しめるってわけです。
野菜は水分を多く含んでいます。そのまま放置しますと水分がある為に腐ります。塩は野菜の細胞に含まれる水分を脱水して腐敗を防ぎ、脱水したあとの細胞膜の中に、塩分と漬物床に含まれるうまみ成分が交代で入り込み、おいしい漬物になるのです。
ぬか漬け、塩漬け、粕漬けなど色々な漬物がありますが、それぞれ床に含まれる微生物の違いによって、味も微妙に変わってきます。ぬか床をかき混ぜる人の手にも微生物がついていますから、漬物はその家によって味が違ってくる所以でもあります。よその家で漬物いただくと家の味と違いますよね?
また、塩は野菜の水分を脱水しますが、同時に腐敗菌も脱水してしまう。したがって生(なま)であっても漬物は腐らない保存食になります。ただ、漬物には抜けた水分の代りに塩分も多く含まれるので、美味しいからといって食べ過ぎると、塩分の摂りすぎになるので注意しましょう。
ちなみに沢庵(たくあん)は沢庵和尚がつけたぬか漬けの一種です。冬にたくさんとれた大根を干すことでアミノ酸を増し、ぬか漬けの風味を加えた日本の名物食品といえるものでしょう。