店の経営者であることを明かした男は、その日から着々と経営者の力量を現してきた。男の話によると、経営者になったのは私と出会うほんの少し前のことらしい。
今まで閑古鳥が鳴いているような店だったのだが、男が経営者として抜擢されると店には多くの客が来るようになった。それに伴い私たちの仕事も忙しくなった。私はもちろんのこと店の子達も一生懸命働いた。夜の世界では一人一人が勝ち残るのは難しいと言われているが、男の機転で店内の争いを沈め互いの魅力を高めあえるような雰囲気作りがなされていった。その結果、店の評判はさらに良くなりお客が増えていった。また、働きやすい職場という評判も伝わり店に働く女の子も増えていった。
そんなわけで、徐々に男を社長と呼び慕う子達が増えていった。例外なく私もその一人となったのである。とはいっても、この時点ではまだ社長と店員のひとりという関係でそれ以上は何もなかった。
ある日、休憩中に男が私に声をかけてきた。
男 「なぁ、夢乃。ちょっと頼みがあるのだけど。」
夢乃「なんですか?社長。」
男 「俺、忙しくて買い物にいけないから野暮用だけど頼まれてくれないか。」
夢乃「はい、いいですよ。何を買ってくればいいんですか?」
男 「俺、今住んでるところに引っ越してきたばかりだから生活用品をちょっとそろえてほしいんだ」
夢乃「わかりました。じゃあ買い物リスト作りますね。」
こんな会話の中で買い物リストを作り買ってくることになった。約1万円程の買い物になったのだが、「これで買ってきてくれ」とポンと1万円を渡された。
だからどーしたの?という声が聞こえてきそうだけど、確かにここまでの私は、ただ単に男に買い物を頼まれてお金を預かり買ってきた商品を渡すというお使いをこなそうとしているだけである。お金もしっかり預かっているし、何一つ詐欺と結びつくことはない。
しかし、一見なんでもないこの普通のやりとりが・・・私を着々と罠に陥れる為の男の作戦の始まりだったのである・・・・・
早乙女夢乃
投稿者: 早乙女夢乃
[04]アカサギとの出会い
私が騙されてきた、のちにアカサギと判明した男との出会いは私が夜のバイトを始めたころである。その男は、私が入店して3日後に店に姿を現した。
男は、自分の親以上の年かっこで私が恋愛の対象にするはずもない男だった。それなのに、男と親しくなり私がこれほど騙され続けることになったのは、男の巧みに女を操る天才的話術のたまものであろう。
もちろん騙されてきたこの6年間に関しても私は男に恋愛感情を抱いていたかといえばそれは違うのだが、男に対して全く感情が無かったとも言い切れない。親しくなるにつれ心にスキが出来てくるのは然るべきことで、その心のスキを巧みに操られてしまったのだ。
私は、店の託児室に子供を連れて行っていたのだが、まず初めに男は子供の世話をしてくれたり子供にお菓子を買ってくれたりした。ある時、子供がおねしょをしてしまったのだが、その時もとても親切に世話をしてくれていた。私の元夫は、実の子供に対しても食事の世話はおろか、入浴なども殆ど協力することがなく毎日呑んだくれているような男で『子供の世話は女がやるのが当然』と豪語するような奴だったので、その男の親切さにはちょっと驚いたものだ。
男や店の子達と話をする中で、その男の住まいが近所だということを知る。また、男の母校が私と同じだという話で盛り上がったこともある。当然だが、母校が同じということは私の学びの先輩ということである。そして徐々に私と男は親しくなっていったのだ。
それからの男は、子供がお腹がすいただろうと食事をご馳走してくれたり、ジュースを差し入れしてくれたりととてもマメでごぼんのうだった。私はあまり人にお世話になることが好きではないのだが、『気にするな』と頼みもしないのにご馳走してくれるのだ。
食事をしながらいろいろな話をした。子供のこと、私の元夫のこと、どのような理由で離婚することになったのか、店で働くようになった理由、借金の有無、再婚するつもりはあるのかなど私の人生を左右するような事を次々と聞き出していった。一種の人生相談のようであった。『借金があるなら返してしまえ。俺が貸しておいてやろう』や『まだ元夫に未練があるのだろう・・・それなら俺が仲をとりもってやろう』などと言い出したこともあり、私はこの人はどんな人物なのだろうと思ったものだ。
そうやって話をする中で、男はこの店の経営者である事実をあかすことになる・・・
早乙女夢乃