[05]こどものこと(1)

21歳のときに会社の上司だった旦那と知り合った。違う部署だった旦那をチラッと見かけて、「かっこいいな。」って私が思ったのがきっかけ。たまたま私の同期の男の子が旦那の部署だったことから一緒に飲みに行くことになって、すぐに仲良くなった。
旦那には遠距離恋愛中の彼女がいた。そのときにもう7年も付き合っていて、結婚の話もでていたみたいだった。でも1ヶ月に1度会うか会わないかの彼女より、身近にいる私を取った彼はあっさりその彼女と別れた。きっと寂しかったんだと思う。彼は転勤で私のいる町に来ていた。友達もいなくて彼女もいない。一人暮らしのマンションはきれいにしていたけどガランとしていて生活感がなかった。
付き合って2ヶ月くらいして、彼に「結婚したい。」と言われた。まだ21歳の私。5歳年上の旦那は27歳の誕生日を目前にしていた。なんで急にそんなことを言い出したのかというと、彼の転勤が決まったから。私たちの交際が上司に知れて、それをあまりよく思わなかった上司の決定だった。転勤は絶対で、彼は地元に帰ることになった。もう遠距離恋愛は嫌だと旦那は言った。
しばらくは旦那のいるところに週に1回ほど通っていた。仕事が終わると走って新幹線に飛び乗った。早くこっちに来い、といつも言われた。でも迷っていた。私の父はとても厳しかったから一人暮らしなんてさせてくれるわけがない。彼ができても怖くて言ったこともなかった。私は父が大好きだった。父が悲しむところを見たくなかったのが一番の理由。
でも私もまだ若かったし、「彼氏」と離れて暮らすことがだんだん辛くなってきた。それに仕事もうまくいかなくなってきた。仕事でいじめにあっていて誰にもいえなかった。やめたいけど両親に心配かけたくない。ずっとそう思っていたけど、耐えられなくなっていたんだと思う。次に旦那のところに会いに行ったとき「私も結婚したい」そう言った。
「こどもが欲しいな。」そういう旦那の言葉に頷いていた。
その日の1回だった。
次の月、来るはずのものが来なかった。
「妊娠してる。あの日だ。」でも信じられなかった。
初めての産婦人科。怖くて怖くて涙が出そうだった。結婚していない私に先生は笑顔でもなく、かと言って冷たい顔でもなく静かに言った。「4週目に入っていますね。来週もう一度来てください。」目の前が真っ白になった。
彼に電話するとしばらく黙った後、低い声で「来週そっちに行くね。」と言った。どうしたらいいのかわからずに私はずっと泣いていた。「大丈夫だから。」なんども彼はそう言った。
とりあえずお母さんに言わなきゃ。話があるという私のただならぬ雰囲気に母は不安そうな顔をした。「結婚したい人がいるの。」そういった言葉にびっくりした様子だったが、その後の私の言葉に顔が引きつった。「おなかに赤ちゃんがいるの。」
母は深く息を吐くと目を瞑った。「困ったねえ。なんでいつもお母さんを困らせるの?」力なく母はそう言った。
ごめんなさい。ごめんなさい。私は何度も小さい声で呟いた。涙が止まらなかった。おなかに命が宿っているなんて想像もつかなかった。
柊 彩花

[04]パパのこと

すずちゃんとの関係はゆっくりだけどちゃんと深まっていっていた。でもなんか踏み切れなかったのはパパの存在。
パパと出会ったのはすずちゃんとの出会いの半年くらい前だった。友達に「おいしい食事連れて行ってくれるからついてきて。」って誘われてついていった時のこと。30代後半のスーツ姿の男性が二人、ホテルのロビーに座っていた。一人は小柄で細く、一人は背がとても高かった。友人は小柄な男性のほうに笑顔を見せるとかわいく走り寄った。
小柄な男性の車にみんなで乗り込み、雰囲気のいい和食のお店に行った。きちんとした和室。豪華なお料理。全部初めて。だって、主婦をしていたころ、外食なんてファミレスくらいしか行ってなかった。こっちに一人できてからも遊び相手の男の子達はお金いっぱい持っているわけじゃなく、ちょっと雰囲気のいいところには連れて行ってくれても、こんな料亭なんてまず知らないと思う。
ふと気づくと、仲よさそうに友人は小柄な男性に甘えていた。どうやら彼は彼女のパパらしい。彼女には普通に付き合っている彼がいる。すごいなぁ、、、と半分呆れてみていた。「どう、この人、ねえ。彩花のこと気入ったって。」今回のこのお食事会はどうやら「私を背の高い方に紹介する会」だったみたい。
それから何度か背の高いその「パパ」と会ううちに、そのパパと「愛人契約」をした。
パパは私のことをとても気に入ってくれてかわいがってくれた。まだ39歳で会社を経営し、10社の会社役員をしていた。月に25万。それが私のお小遣い。そのとき私が会社からもらっていたお給料は18万。毎日毎日、怒られて嫌味を言われて18万。服が欲しくなれば甘えて買ってもらう。お小遣いがなくなれば甘えてもらう。朝、時計を忘れたと言ってパパに来てもらい40万の時計を5分で決めて買ってもらう。会社まで毎日タクシーで通う。毎日おいしいお食事。おかしくなる金銭感覚。
特定の彼がいたわけではないので(一応結婚しているけれど)、パパの束縛にも苦痛を感じることはなかった。エッチすることも。むしろ上手だったので楽しみでもあった。背の高いパパのあそこはとても大きかった。それに愛撫がとても上手で、経験のわりに「いく」ってことがわからなかった私はパパに始めていかせてもらったような気がする。
もちろんパパには家庭がある。だから私にお金を渡しているんだって。私のことをほんとに好きだと思うようになりそうで怖いって。彩花はお金をあげているから自分に甘えてきたりしている。そう思いたいから、線を引きたいからお金を渡すんだって言う。パパはいつも寂しそうに見えた。時々ね、エッチをしているときに「彩ちゃん、好きって言って。嘘でもいいから…。」って言うの。頑張り過ぎなの、パパは。会社でのプレッシャー、家ではいいパパで旦那様でいなきゃ、でしょう?よしよしってしてあげる。彩花の胸でお昼寝して、ネクタイ締め直して会社に戻るパパ。いつもお疲れ様。
でも2・3ヶ月もするとパパの束縛はひどくなり、メールの返事が遅いと怒られ、電話にでないと怒られた。「俺達は契約しているんだから言うとおりにして。」とよく言われた。すずちゃんと出会ったころは、週に1?2回だったデートも1ヶ月に一度くらいになっていた。でもまだ関係は続いていた。
すずちゃんに抱かれたいって思うようになった。でも私はパパに抱かれる。お金で買われているの。すずちゃんに抱かれる資格なんてないと思っていた。だんだんパパとキスしたりエッチしたりっていうのに苦痛を感じるようになっていた。エッチの後、気がつくと涙が出ていることもあった。でも壊れた私の金銭感覚はなかなか直らずお給料だけでは生活できなかった。スナックのバイト代もファミレスのバイト並みだったし。すずちゃんとお食事したくて休みがちになり、バイト代も当てにならなかった。そんなふうで結局パパとの関係は続いている。ダメな彩花。
柊 彩花