[22]無限のソフト

本当は男女はない――と私は言い続けたかもしれない。ない、ない――とね。
でも、勘違いしてはいけないよ。
それは男女の否定なんかじゃない。しがらみの否定なんだ。
子供を見てごらんよ。あなたがうんと小さかった頃を思いだしながらね。
そのとき、あなたは幸せじゃなかったかい?
きっと、あなたは幸せだったよ。
無邪気に笑い、無邪気に怒り、無邪気に泣いた。
あなたを縛るものはなかったからね。
そこには、何のしがらみもなかった。
いつしか、時間がずいぶん流れてしまったね。
おおきくなったあなたは言うだろう。
仕事をしなくちゃ。結婚しなくちゃ――と。
なぜ?
なぜ、しなくちゃいけないの?
仕事をしなくても生きていけるなら、しなくてもいいじゃない?
結婚しなくても平気なら、それでいいじゃない?
やらなくちゃ、こうであらねば――とあなたは言う。悲しいまでに言う。
いつから? どのくらいから、そんなになってしまったの?
男であってもいい。女であってもいい。結婚しても、仕事をしても――。
でも、あなたはあなたであるべきなんだよ。あなたは、自分の主人であるべきだ。あなたしか、あなたの主人でいられないんだから。
男であるとか女であるとか、結婚するとかしないとか――それは道具にすぎないよ。単なるソフト。
ソフトに使われてはいけないよ。
あなたがソフトを使うんだ。
あなたが主となってね。
そしたら道具が活きてくる。無限のソフトが精気を帯びる。
でも、あなたがソフトに使われたなら、そのときはNG。あなたは道具そのものになってしまった。
我々は、いずれ子供から大人になる。重い道具をたずさえ、思想や道徳にがんじがらめにされながらもね。
今やあなたは立派な大人の男となり、女となった。それにしても、なんと男らしく、女らしく振舞うようになったのだろう。
道具は、道具としてあっていいよ。道具自体には問題ない。それはかまわないよ。
でも、あなたは? あなた自身はどこへ行ってしまったの?
椎名蘭太郎

[21]コンピュータ ボックス

人とコンピュータ――この違いはどこにある?
どこが違うかね?
確かに、これらは違うだろう。違うような気がしないでもない。
人には意志があり、心もある。
なるほど。あなたには意志があり、心がある。
けれど、その意志や心はどこから来たのかね? あなたは、あらかじめ与えられたもののなかから選択しているだけじゃないの?
その選択さえ、他のちからによって支配されていない?
心は単なる、あなたの記憶の残像でしかないとしたら?
あなたの思いが集積した、残像。
どうかね?
コンピュータも、あたえられた条件のなかから選択する。人とコンピュータは、あまり変わらないものなのかもしれないよ。
我々は男であり、あるいは女である。どちらか一方だ。
でも、どうしてどちらか一方である必要がある?
あなたはいつから男になり、女になったの?
男女――。
それは、当然のことかもしれないね。
だって、あなたはプログラムされてきたんだもの。
どうして、それ以外でいられる?
どうやったら男でなく、女でもなくいられる?
そう。
人は、あらゆることにプログラムされてきた。
例えば、池で溺れる人がいるとする。
あなたならどうする?
どのような選択をする?
もしあなたが戦国時代に生きていたら、あなたは溺れるまで待ち、首をとり、褒美を得たかもしれないね。
それとも別の世界に生まれ、命を投げだしても人の命を救わなければならないとプログラムされていたら、きっとあなたはその人を救うために命を投げだしたことだろう。
軍人が、国のために命を投げだしたようにね。
どちらにせよ、あなたは誉められる。
プログラムされた通りに動いたから、あなたは誉められたんだ。
でも、本当はあなたなど問題ではないよ。
プログラムがプログラムを誉めただけ。
社会で生きる人々も、あなたも、結局はプログラムによって動かされていただけなんだもの。
それにしても我々は、どうしてこうも二つだけなのかね?
100の人がいるとして、彼らはそろいもそろって二つだけを目指していく。
一つは男へ。もう一つは女へと・・・。
どうして、二つだけなのかね?
どうして、100ではいけなかったのかね?
それとも、二つでなければナンセンスとでも言うのかね?
椎名蘭太郎