[19]被害回復

悪徳商法に騙された事実を知った私は、このまま泣き寝入りなんてするものかと作戦を考えるも良い案がなかなか浮かばなかった為、この事実を思い切って男に相談した。
すると男は、待ってましたとばかりに私の相談を真剣に聞いてくれた。「まったく馬鹿な女だ。俺がいないと何もできない女なんだから俺に頼っていればいいんだ。」と言いたげな態度だった。実際遠まわしないやみ?な言葉も連発していたし。
非常にいやみ?な言い方ではあったが、さすが私の倍以上の年月を生きてきただけはある意見を言い、私にこれからどうすれば良いかの指示をしてくれた。
とにかく男の助言の通り悪徳商法に関する法律を調べた後、まずは消費者センターに相談に行くことにした。男の話によると、消費者センターのある施設には自分の旧友が上司として働いているらしい。私が相談に行く旨の電話をしておいてくれるとのこと。それが事実だったのかどうかは不明だが、当時はその言葉を信じていたし後日実際に男の旧友らしき人を紹介してくれたので「顔が広い男なんだなぁ。」と私は以前にも増して男の偉大さを再確認したものだ。
顔の広さはさておき、消費者センターでは私の案件は非常に困難な状況まで陥っていたようで、この内職商法については未解決に終わった。それでもこの案件をきっかけに騙されていたものが次々と発覚していた為、まとめて相談したもののうち2件は解決に至っていた。消費者センターの方には感謝している。
消費者センターでは解決できなかった案件については、次の段階として弁護士に頼むことにした。弁護士さんに至っても、男の会社の顧問弁護士を紹介してもらい相談の時間を設けてもらった。弁護士に頼んでしまえばあとは連絡が来るまで待っているだけだった。数ヶ月かかったものの、この道には長けている弁護士さんだったこともあり満足のいく結果をもたらしてくれた。
こんな感じで、私が悪徳商法との戦いを開始してから約半年。いわば男のおかげでこの問題は無事解決に至った訳である。くしくも究極の悪徳商法的生き方をしているアカサギに、私の悪徳商法の被害を回復してもらったのであった。
早乙女夢乃

[19]餓鬼の道

人の歴史は支配されることの連続だった。
人々が、支配者によって支配されたんじゃないよ。支配者もふくめ、全員がみえない敵、環境に支配されつづけてきたんだ。
いや、本当は環境でもない。あなたがつくりあげた自分の亡霊に、あなた自身が支配されてきたんだから。
あなたは男女のどちらかに生まれている。これは、きっと正解だろう。
あなたが男だとして、どうしてあなたは実に男らしくなったのかね? その理由を、じっくり考えたことがあるかね?
確かに、あなたの体には男性ホルモンがおおくながれ、酔いしれやすくなっている。でも、それ以外は?
どうかね?
あなたは、過去につくった自分の亡霊と、あなたの思い込みによる今の亡霊とをうまいぐあいにミックスさせ、あなたをつくりあげてきたのではなかったかね。決して本来のあなたでない、つくられたあなたがあなたを占拠してしまっている、としたら?
現代のモラルや規律をつくりだしたのも、あなたではない。先人たちであり、くりかえし伝えるメディアがそれらをつくりだした。
そしてメディアの側でも、自分たちが伝える内容によって自らが染めあげられる、という現象がつづいている。
そもそも、常識とされるモラルになぜあなたがすっぽりはまらなくてはならない? どうして、日本人のモラルはそろって同じであり、同一人物のようになってしまったのかね?
昔の日本人は男が偉いといい、今の日本人は女が偉いという。そんなにコロコロと偉い人がかわるものかね? なにより、どうしてそんなに極端なのかね?
男が偉いといったり、女が偉いといったりするが、両者の意見は半々にはならないね。それとも、どちらかが一方的になることだけが正解かね?
男女のことだけじゃないよ。なんでもそうなんだ。
今の大量消費社会をみてごらんよ。
高いものを次々買うことが、今やステータスとなった。けれど、昔はそうでなかったね。節約に、ものを大切にすることが美徳とされた。
どちらにしても極端すぎることはないかね?
それにしても、やはりあなたがたは支配されているよ。
現代社会は、いびつな犯罪や事件が多発しているといわれている。
そうだとすれば、どのへんに問題があると思うね?
ほかでもない。それは大量消費社会ではなかったかね?
人の物欲とやらだよ。
物欲を満たすために、人々はたえまなく働き、金を稼がなければならない。昼も夜もなく、物欲の炎が燃えさかるかぎり、その分だけ働きつづける。そして、物欲に終わりがあるはずもない。
永遠の欲求は満たされることがなく、働きづくめ、金に負われてストレスばかりが募る。そういった土台があり、不幸が決定づけられ、ゆがんだ社会が誕生したのではなかったかね?
悲しいかな、あなたは物の虜となって、物に支配されたというわけだ。
もはやそこには、あなたなど存在しない。もっともっとの、物欲の連鎖を断たないかぎりあなたが回復する見込みはないだろう。
我々は、男か女かのどちらかである。でも、きっとそれは、もはやたいしたことじゃないよ。肝心なのは、支配されていることに気づかないことさ。それこそが問題なのかもしれないね。
椎名蘭太郎