[13]シーソーは止まらない。

イニシアティブを握る。この重要性は、戦略家と名乗る者であればよく知っている。シーソーのおよぶ世界では、それはとても重要だ。
上司と部下の関係にはそれがあり、男女のあいだにもそれがある。それどころか、世界の至るところにはイニシアティブがあり、リードする者とされる者がいる。
現代は、女がイニシアティブを握っている。ウーマン・リブがその潮流を築いたとしても、要因はべつのところにある。
他でもない、金の力というやつだ。金は、力以外のなにものでもない。男が、簡単に女に給料を明け渡したとき、両者の力関係に決着をみた。
企業は、財布を握っているものをターゲットとする。
今の消費者は誰かね? 誰が中心になっているのかね?
影響力をもちうる者を、社会やメディアは優遇する。今も昔も、力につき従う姿に変わりはない。
じゃあ、どうして男はそんな簡単に力を明け渡したのか?
いや、ちがう。
明け渡したのではない。昔のままというべきだ。
女はみずからを解放したが、男は昔のままだ。時が流れても、男の時間は止まっていた。時代のながれに適応できなかったのだ。
そもそも、彼らには自由の権利がない。家を守ること、子供を育てることのみならず、化粧をする権利すら持っていない。悠長な話だが、彼らは決められた形であらねばならない。
その一方でいう。好きなことをする権利を侵害してはならないと。
昔は特権だらけだったあなたがただが、今やいったいどんな特権があるというね? あるのは、女の特権だけだよ。
そもそも男がこうあるべきとしたら、その正体はなにかね? 話のもとになる、発想そのものが間違っていないかね?
よくよく考えてみるといい。男らしくではなく、自分らしくのほうが自然と思わないかね?
が、どのみちシーソーは動いてゆく。男女が対等な関係というものは光陰矢のごとし瞬間だよ。
対等などありえない。そんなものはない。対等で立ちどまったことなど一度ですらなかった。それは、時が永遠に止まらないのとおなじようにありえないことなのだよ。
シーソーは止まらない。公平や平等、対等などはたいした問題じゃない。不平等や不公平すら、必要なものとして存在しているんだから。
この動きゆく世界のなかで、誰かがイニシアティブを握っている。
そして、そうである限り誰かがイニシアティブを握られている。男女関係であれ、上下関係であれ、そこにシーソーがあるかぎり・・・。
それでも人は、平等であるべきだという。対等にしなければならないと。平等や対等にしなければならないとね。
そんな幻想に固執するより、在るものを認めるべきじゃない? 
そのなかで、よりよい関係を築けばいいだけじゃない?
その時にこそ、実りある真の対等がおとずれるのかもしれないよ。
     シーソーは止まらない。――より
椎名蘭太郎

[21]PCで検索、オーパス体験。

ある平日の昼間、私は暇を持てあまして家でゴロゴロしていた。連日家でゴロゴロが続いていたので、ゴロゴロにも飽きてしまい、どこかへ出かけようかと考えながら、『オーパス』の存在を思い出す。オーパスとは、オーネットの有料サービスのひとつで、支社のコンピュータで写真や略歴を検索できるシステムである。
1回90分で3万円(だったと思う)で、入会したときに1回無料のチケットをもらっていたので使わなければもったいない。そう思いながらチケットを見ると有効期限が切れている。しかし、担当者に尋ねると利用できるとのこと。予約制だが、平日の昼間なので空いており、すぐに支社に出向いた。
支社に行くのは3度目だ。別に悪いことをしているわけではないはずなのに、道行く人にオーネットに行くと思われてはないだろうか?と奇妙な羞恥心が頭をよぎる。パーテーションで仕切られた商談ブースに通され、使い方の説明を受ける。コンピュータは21インチ程度のディスプレイのみでキーボードはなく、マウスで操作。携帯電話や筆記具の持ち込みは不可で、バッグは預かっておきますと言って取り上げられた。
重要な個人情報なので、扱いはまずまず慎重なようだ。自分の会員番号を入力してスタート。居住地と年齢と年収が検索項目だったと思う。ヒットすると一覧で小さな写真が出てきて、さらにクリックすると本人の写真2点、自己PRのコメントほか身長、体重、趣味、婚歴、子どもの有無など主要なプロフィールが出てくる。写真はかなりクリアなもので、サイズも大きい。ここで気に入った人10名まで申し込みができる。
他人の顔やプロフィールを見るのはかなりワクワク、ドキドキとして思いのほか楽しいものだ。が、楽しんでいる場合ではない。私は生涯の伴侶を探しているのだから。で、自分の条件は棚に上げて、主に居住地と容姿で選んでしまうと、申し込みをしてみようかと思う人は、私より若い年齢の婚歴なしの男性になってしまった。
どう考えても無理目な選択だが、無理に妥協することもないかと思い、5名に申し込みを決定。時間が余ったので、興味本位で検索を続ける。みんなどんな暮らしをしていて、どんな思考で、どんな結婚観を抱き、今は何をしているのかなぁ、と想像を巡らせながら90分終了。暇つぶしとしては有意義であったが、結婚につながりそうな予感は皆無のまま、支社を後にした。
本城愛子