心と体を完全に奪われてしまった私が完全なる金庫番になるまでそう時間はかからなかった。
今までは男がよく私の家を訪れていたのだが、体の関係ができたその日を境に男の訪れる回数が急激に減ったのだ。今まで受身体制だった私は、男が訪れることが少なくなった事にやきもきしていたことを覚えている。
この期に及んで言い訳をするようではあるが、男を愛してしまった訳ではない。要するに男とのセックスにハマってしまった体が男を欲しくて欲しくて堪らなくなっていたのだ。
そんな状態で、私は男に電話をかけるようになった。男は、私が電話をすると数回のコールで受話器をとった。「どうしたんだい夢乃。何かあったのかい?」常に優しい口調で話す男。「いや、特に無いけど・・・何しているかなぁ・・・と思って。」と私。「今仕事中で忙しいから後で電話するから。」と男。「うん、わかった。じゃあまた。」と私。
私からの電話に男はこのような対応をする。実際毎回後で電話がかかってはくるのだが、それは必ずといっていい程2?3日経ってからだったのである。ちょうど私の体が男を欲しくて欲しくて我慢できなくなる頃を見計らって電話をかけてきて私の家を訪れるのだ。
そんなタイミングで来られたら、私の体が拒否することは絶対ない。数ヶ月の間、こんな日々を繰り返し続けた男。そして私を完全に調教しきることに成功した男は、私が男の体を欲しがる時期を計算した上で訪れてはお望みどおり私の体を満たしてあげたという態度で私から平然とお金を引き出していくようになっていたのだ。
よくある男と女の恋愛のカケヒキだろう・・・と言われればそれまでなのだが、男はこのような方法で私を男に逆らうことのない完全なる金庫番に仕立て上げたのだ。
早乙女夢乃
[17]晴れて交際スタート!
本紹介書を見て気に入った彼からは連絡が来ない。その間に私の情報は全国版の情報誌に載り、全国各地から、下は20代前半(なぜに?!)から上は50代後半まで実に多くの人から申込の紹介状を受け取った。
捨てる神あれば拾う神あるとはよくいったもので、離婚歴のある子持ち女でもそれなりに需要はあるようだ。しかしながら、生身の人間として愛せるか、という大きな問題が立ちはだかっている。また、私には慣れ親しんだ居住地があり、近くには家族がおり、実は趣味にも似た大好きな仕事がある。
自由で結構のんきな生活を営んでいるのが実状で、これらを捨てて、どこか他の地で暮らそうと思うためには並々ならぬ愛が必要だ。今の生活を捨てて愛を注ぎ合える相手かどうか、と自問する日々。こうして相手の居住地を限定することが再婚を縁遠くしているのかもしれないのだが・・・。お見合いパーティで話した転勤族の男性も言っていたが、県外はNGという女性は多いらしい。
そして、ついに意中の彼から連絡が入ったのだ。一度会おうということになり、会ったところ、会話も気持ちも結構盛り上がった。相手の感触もまずまず良い。数回の電話の後、二度目に会ったときに「交際しよう」と言われたのだ。
気持ち舞い上がっていたが、この時点ではまだスタート地点である。他の候補者をキープしておいて、平行して会って検討するという人も多いらしいが、私はすべての紹介状をお断りにして返却した。二兎を追う者は一兎をも得ずというではないか。
実は気になる候補者もいたが、的を絞るというのが私の方針である。いっそのことオーネットをやめてしまおうかとも思ったのだが、この件を身内に相談すると、「滑り止めも受けずに東大受験するみたい。偏差値足りてる?」みたいに言われたので、さすがに退会までには至らなかった。で、彼とはどうなる?!
本城愛子