[04]パパのこと

すずちゃんとの関係はゆっくりだけどちゃんと深まっていっていた。でもなんか踏み切れなかったのはパパの存在。
パパと出会ったのはすずちゃんとの出会いの半年くらい前だった。友達に「おいしい食事連れて行ってくれるからついてきて。」って誘われてついていった時のこと。30代後半のスーツ姿の男性が二人、ホテルのロビーに座っていた。一人は小柄で細く、一人は背がとても高かった。友人は小柄な男性のほうに笑顔を見せるとかわいく走り寄った。
小柄な男性の車にみんなで乗り込み、雰囲気のいい和食のお店に行った。きちんとした和室。豪華なお料理。全部初めて。だって、主婦をしていたころ、外食なんてファミレスくらいしか行ってなかった。こっちに一人できてからも遊び相手の男の子達はお金いっぱい持っているわけじゃなく、ちょっと雰囲気のいいところには連れて行ってくれても、こんな料亭なんてまず知らないと思う。
ふと気づくと、仲よさそうに友人は小柄な男性に甘えていた。どうやら彼は彼女のパパらしい。彼女には普通に付き合っている彼がいる。すごいなぁ、、、と半分呆れてみていた。「どう、この人、ねえ。彩花のこと気入ったって。」今回のこのお食事会はどうやら「私を背の高い方に紹介する会」だったみたい。
それから何度か背の高いその「パパ」と会ううちに、そのパパと「愛人契約」をした。
パパは私のことをとても気に入ってくれてかわいがってくれた。まだ39歳で会社を経営し、10社の会社役員をしていた。月に25万。それが私のお小遣い。そのとき私が会社からもらっていたお給料は18万。毎日毎日、怒られて嫌味を言われて18万。服が欲しくなれば甘えて買ってもらう。お小遣いがなくなれば甘えてもらう。朝、時計を忘れたと言ってパパに来てもらい40万の時計を5分で決めて買ってもらう。会社まで毎日タクシーで通う。毎日おいしいお食事。おかしくなる金銭感覚。
特定の彼がいたわけではないので(一応結婚しているけれど)、パパの束縛にも苦痛を感じることはなかった。エッチすることも。むしろ上手だったので楽しみでもあった。背の高いパパのあそこはとても大きかった。それに愛撫がとても上手で、経験のわりに「いく」ってことがわからなかった私はパパに始めていかせてもらったような気がする。
もちろんパパには家庭がある。だから私にお金を渡しているんだって。私のことをほんとに好きだと思うようになりそうで怖いって。彩花はお金をあげているから自分に甘えてきたりしている。そう思いたいから、線を引きたいからお金を渡すんだって言う。パパはいつも寂しそうに見えた。時々ね、エッチをしているときに「彩ちゃん、好きって言って。嘘でもいいから…。」って言うの。頑張り過ぎなの、パパは。会社でのプレッシャー、家ではいいパパで旦那様でいなきゃ、でしょう?よしよしってしてあげる。彩花の胸でお昼寝して、ネクタイ締め直して会社に戻るパパ。いつもお疲れ様。
でも2・3ヶ月もするとパパの束縛はひどくなり、メールの返事が遅いと怒られ、電話にでないと怒られた。「俺達は契約しているんだから言うとおりにして。」とよく言われた。すずちゃんと出会ったころは、週に1?2回だったデートも1ヶ月に一度くらいになっていた。でもまだ関係は続いていた。
すずちゃんに抱かれたいって思うようになった。でも私はパパに抱かれる。お金で買われているの。すずちゃんに抱かれる資格なんてないと思っていた。だんだんパパとキスしたりエッチしたりっていうのに苦痛を感じるようになっていた。エッチの後、気がつくと涙が出ていることもあった。でも壊れた私の金銭感覚はなかなか直らずお給料だけでは生活できなかった。スナックのバイト代もファミレスのバイト並みだったし。すずちゃんとお食事したくて休みがちになり、バイト代も当てにならなかった。そんなふうで結局パパとの関係は続いている。ダメな彩花。
柊 彩花

[03]彼とのこと

彼とはすぐに仲良くなったの。と、言っても飲み屋の女の子とお客さんっていう関係で。私のほうは勝手に運命的な出会いだって思い込んでいたけど、彼にとっては暫くの間、ただの田舎のスナックの女だったみたい。ただ、こういう仕事は初めてだったから、飲み屋の子と遊ぶことに慣れていた彼にとって、お水っぽくない私は新鮮な存在だったとは言っていた。
最初に来てくれた日、彼は仕事仲間のタカ君と一緒だった。タカ君っていってももう38歳。もう「君」って年じゃないでしょう…って思ったけど、すずちゃんもママもそう呼んでいたから私もタカちゃんって呼んだ。タカちゃんはすずちゃんより年上だったけど、仕事ではすずちゃんの方が上らしく、お店にいるときも敬語を使っていたりしてすずちゃんには頭が上がらない感じだった。
ボックス席に座ったすずちゃんの横に私が、タカちゃんの横にはママが座った。私が横にいくとすずちゃんは手を握ってきたり、スカートめくろうとしたり。私が「もぉ??!」と怒ったふりをすると「ええやんかぁ」ってすごく楽しそうに笑ってくれた。握ってくれる手はドラえもんみたいにポヨっとしていて温かかった。久しぶりに感じた温かさに思えた。久しぶりに心から笑ったの。楽しい!楽しい!楽しい!
帰りに車まで送っていって、いつもお客さんに聞くみたいに電話番号のおねだり。「ええよ。」って彼の言葉を聞くと、彼の手から携帯を取って自分の番号を押す。「明日電話してもいい?」って聞く。「電話してね。」だと、掛かってこないかもしれないじゃない?待つのは不安になるから。それから毎日電話するようになったの。
それから何日かして、またタカちゃんと一緒に彼はお店に来てくれた。前回はジャージだったけど、この日はスーツ姿だった。くっきりしたストライプの入った濃紺のスーツに赤いネクタイをしていた。怖そう、、、、。普通のサラリーマンじゃなさそうだな。
そんなことを考えながらも、私は嬉しくて嬉しくて、すずちゃんにベッタリだった。その日はほかにもお客さんがいて、ママはその人達とお話していた。楽しくて仕事を忘れるくらい。でも本当に忘れちゃダメなのよね。だってね、タカちゃんが怒っちゃった。
「彩ちゃんはこういうところで働くの向いてないのじゃないの?全然仕事できてないじゃない。」きつい言い方でタカちゃんは続けた。「もっと都会のクラブの子達なんてすごいんだよ。どうせバイトだからって適当にやっているのかもしれないけど、こっちはお金払っているのだから。」すずちゃんの前で怒られて涙が出そうになった。でも泣くのは恥ずかしいから我慢していた。そこでママに呼ばれた。そばに行くと「裏で座ってなさい。」っていつもよりずっと優しく言ってくれた。
裏に行くと気が抜けて一気に涙が出てきた。しばらくワンワン泣いていたら落ち着いてきた。お金貯めるって決めたんだから!負けない。負けない。負けない!ってテンションをあげようとした。様子を見に来たママに「ごめんね。もう泣かないから…」って中学生の青春ドラマの1コマみたいな台詞を言うとなぜかコートを渡された。「えぇ!ちゃんと今から頑張るから!」やめさせられるかと思った。出て行きなさいって言われると思った。「急ぎなさい。すずちゃん達がお勉強のためにクラブに連れて行ってくれるって。」
外に出ると黒いコートを着込んだ二人が立っていた。ますます怖そう、、、タクシーで向かった先は一番の繁華街。韓国人のクラブだった。私のいる場末のスナックとは桁違いの華やかさで、エレベーターはピカピカ。中に入るとたくさんの女の子が出迎えてくれて、私達の席には4人ついた。「スズキさん、はいッ♪」仲よさそうにリンと呼ばれた子がすずちゃんにお酒を渡す。
すずちゃんが私のことを妹だって女の子達に紹介すると、リンちゃんは「本当なの?弟しかいないって言ってなかった?」と怪訝そうな顔で私を覗き込んだ。
「全然似てないね。ほんとなの?こんなに綺麗な妹??」としつこく疑る。すずちゃんとリンちゃんは二人で会ったりしているみたい。仲のよさそうな二人を見ていたら、びっくりするくらい私は嫉妬していた。そんな私の様子を察して、すずちゃんはみんなに見えないように手を繋いでくれた。温かい手。
手を繋いでいるのをリンちゃんが見つけた。私を睨むと、「ねーえー」ってすずちゃんに甘えた声を出してホッペにキスをした。得意げな顔。当たり間だけど妹じゃないって彼女は気づいている。涙が出そうになった。いっぱい飲んでねってたくさん飲まさせられた。飲めないブランデー。断るのは悔しいから無理やり飲んだ。
どれくらい飲んだかわからないけど私はフラフラになっていた。ママから電話があって帰ることになり、タクシーに乗った。タカちゃんは助手席で私はすずちゃんにくっついて後ろに座った。「すずちゃん、りんちゃんとチュウしてた、、、」「ばかなこと言うなよ。していたんじゃなくてあっちが勝手にしてきたんやないか。」「やだったもん。」酔っていたのも手伝ってものすごく嫉妬していた。すずちゃんを見上げたらすずちゃんも彩花を見ていた。タカちゃんが乗っているタクシーの中で初めてのキス。ほんとに初めてのキスみたいにチュって。
それから何度かお店に来てくれて、帰りのエレベーターでチュってする関係が1ヶ月くらい続いたの。エレベーターで二人きりになれるのが待ちどうしかった。それまでキスなんて誰とでも簡単にしていた。でも、すずちゃんと会ってからできなくなった。すずちゃんとキスするときは本当に愛おしくて大切な時間。
ああ、人を好きになるってこういうことなのかも。27歳。いまさら初恋かもしれない。そう思った。去年の11月。
柊 彩花