[16]男女兼備

男女のかたちは、今後どうなると思うね?
今と変わらないかね?
きっと、そうではないと思うよ。そのようなことは、これまでに一度もなかったんだから。男女のかたちが固まるなど、どうしてありえよう?
今後の人々は、男女兼備となるよ。男女が肉体的には変わらなかったとしても、中身は男女両方を求めるようになるね。
これは、想像でも予想でもないよ。そうならざるをえないんだよ。環境がそうさせるんだもの。
かつての人々は、環境によって男女の役割を発明してきた。それが、男女のらしさ――ということになった。でも、決して一人が男女を演じようとはしなかった。
なぜ?
そこに理由などあるかね?
そうじゃないよ。簡単なことだよ。それだけの余裕がなかったんだ。
他人を援助したり動物を愛護したりすることが、この頃の流行となっているね。でも、どうやったら昔の人にそんなことができる?
今日、生きることしか考えられなかった時代に、犬に服をきせ、募金活動ができると思う?
かつての男女に役割ができたのは、冗談でやっていたことではなかったんだよ。それが生きぬく術だったんだから。
そして、時は流れていった。あなたがたは充分なゆとりを持った。きびしい時代とはちがう、今のゆとりの時代を――。
人々は、男女兼備にならざるをえないよ。
やさしいが弱い人間が、強くなりたいと思うことに問題があるかね?
それとも、強いが自分勝手な人間が、おもいやりを持ちたいと思ってはいけないのかね?
かつて男は強く、女は美しくあらねばならなかった。男が美しく、女が強ければ人々から爪弾きにされた。
どうかね?
昔は、半円で生きることしか許されず、むしろ半円で生きることのほうが効率的で賢い生きかただった。
でも、変わったんだ。状況は、おおきく変わった。
あなたがたには余裕がある。円になれるだけの環境がととのいつつある。
偶然、環境がととのったのでなく、あなたがたの意識レベルがそれに耐えられるだけの能力をもったということさ。
となれば、誰にいわれるでもなく、いずれ円を目指すだろう。円のほうが可能性があり、才能を発揮できる。なにより、男女兼備のほうが魅力的に決まっている。色に七色あれば、七つとも備えていたほうが人は魅力を感じるものだからね。
どちらにせよ、そこには人の思惑など及ばない働きというものがある。男女それぞれへの思いがいかにあろうともね・・・。そして自然沙汰のちからは、環境に適したものを冷徹に選択しつづける。
となれば、ちかい将来は決まったようなものだろう。
椎名蘭太郎