[108]語学学習、継続は力なり

初めて渡仏したのは1987年の夏、大学の交換留学生に選出されて憧れのアルプスへ。仏留学中は勉強もしたけど良く遊んだ。お陰で9ヶ月の留学期間が終わる頃には一通りに仏語の読み書きが出来るようになった。しかし2000年の春、ディジョンに来たときは誰もが私は仏語学習未経験と思うぐらいに綺麗さっぱりと学んだはずの仏語はどこかへ。弊社の直属の上司は留学先の大学が発行した仏語研修上級クラス修了書を見て呆れてた。
一度覚えた語学でも母国語じゃないしそれで暮らしている訳でもないので失うのは当然。では外国に住んでそれを使いながら暮らせば上達するか、というとこれにも限界がある。私の周囲のフランス人が知性に富んだアカデミーフランセーズ(フランス学士院)の会員だらけならきっと未曾有に上達するでしょう。でも生活していて会う人も毎日の会話相手も様々。下品な人もいれば外国人の私でも指摘出来る簡単なミスをするフランス人もいる。
ここの人ほど自分の言語を愛する人種はこの世にいるのかな、と思う位にそれを大切にし愛情を持っている。そして外国人のミスを訂正するのが大好き。相手の事を配慮してそうする人もいれば、ただ単にそれで優越感を抱くアホもいるのがシャクに触る。特に後者は私たち外国人のミスを指摘するけれど自分たちの会話では平気で品のない言葉を使ったり、私たちの手本にもならないような下手な喋り方をする人もいます。つまり当てにならない。

言語の無法地帯にいるというのが現地生活だと私は思っています。だからそのウィルスから逃れ、外国人だって威厳のあるきちんとした会話が出来るんだぞというところを見せたいがためにも、また自分の年齢に合った喋り方、品位を身に付けるためにもやはり語学学習の継続は不可欠だと毎日思っています。日本語ならきちんと出来るのに外国語じゃ出来ないというのはありえないはず。発音はともかくとしても話し方と内容は幾らでも磨けるはず。語学力をつけるための準備として自分に合った辞書や参考書を見つけるのは黄金律。
情けない私のフランス語力を影ながら支えてくれている辞書と参考書をご紹介します。
小学館 ポケットプログレッシブ仏和・和仏辞典 IBSN4 -09-506061-1 2200円
白水社 実習フランス語教程 IBSN4 -560-00150-2 C3085 4000円 
実習フランス語教程初級から中級まで
実習フランス語教程初級から中級まで 練習問題2000
特にポケット辞書は食品と医薬品を買いに行くときに不可欠。分からないまま買うととんでもないものを手にすることになる。ひき肉と犬の餌の肉を間違えて買った人は私ぐらいかしら。

夢路とみこ

[100]労働許可証への道(3)

1年間の無給インターンを経てバイト採用に変わり、会社がアシスタントマネージャーの名目で正規申請したのは2年半が過ぎてから。名刺の肩書きだけは立派だけど許可証がないから給料はバイト代のまんま。その収入は金融業界の5分の1、日本で派遣してた頃の3分の1。でも仕事の満足度は今までの10倍。
申請から半年後一度却下されました。すぐさま社長と人事担当者が2回も県庁へ交渉へ行きやっと申請が通りました。1回目の交渉時には私が起こした会社の日本語資料を持って、2回目は私が来てからの日本市場の売上げという具体的な数値を以って私の不可欠性を説きました。既婚などで在住日本人がいるのに何故私なのかを突く県庁案を覆すには私の存在が会社に有益である、即ち仏経済にプラスであるロジックが必要。

私のところに来る就職志願の日本人学生は多くディジョンや日本で時々会います。どうしてフランスで働きたいの?『フランスが好きだから。』ではフランス人と結婚するのが一番確実でしょう。好きな人と好きな国に住めるなんて理想だわよ。仕事はどんな事がしたい?『何でもします』本当?私の仕事はマーケティングだけど船に乗る時は皿洗いも便所掃除もあるわよ。ところで技能として何が出来る?『フランス語が得意です』語学は手段であって武器にはなりません。とこんな問答がいつまでも続きます。やはり日本で一度きちんと就職してそれなりの業績やキャリアを積んでからでないと海外就職、特に地方の現地企業は難しいとお考え下さい。
県庁から許可証を出すから×月×日に出頭せよと通知が来た。大喜びで知り合いにお寿司を注文。社員20名に私からの大盤振る舞い。この日のためにと日本から持参した一升瓶をも出しての出血大サービス。朝県庁へ行ってお昼に皆で酒盛りと極楽絵巻を頭に描きルンルンで窓口へ向かうと「引き換えの書類が一部足りない、また来週おいで」という。許可証は目の前にあるのに。落胆したままお寿司を持って帰社。取りあえず物は見たからと予定通りの酒盛り。
翌週書類を揃えて行ったら「あんたの許可証資料見当たらなくなった。明日までに探すからまたおいで」とけんもほろろ。そして運命の日、祈る思いで窓口へ。「待たせて悪かったね。ホレ、ここにサインして」と署名し入手。涙がポロリ。この紙一枚のために3年半、短いようで長かった。その夜、亡くなった母の写真に語りかけながらひとりウッシッシと晩酌、まるでオヤジのよう。

夢路とみこ