[330]ムーリスでお茶(1)

パリにはパラスホテルと呼ばれる超高級ホテルが幾つかあり、ミッシュランの3つ星レストランが入っているところも多い。お泊りにも3つ星にも最近ではもう縁のない私がこの手の場所に出入りする理由は「サロン・ド・テ」つまり「お茶をするため」
ルーブル美術館、ジュー・ド・ポーム美術館、オーランジュリー美術館にも近いので、美術館巡りの後に立ち寄ってもらいたいサロン・ド・テのひとつはここ
ムーリスのメインダイニングはミッシュランの3つ星で、その隣に「ダリ」というカジュアルなダイニングがあります。こちらは星なし。でも、ムーリスの中のレストランですからね、やはりここの料理の総指揮は3つ星シェフのヤニック・アレノ氏によるものだそうです。メインダイニングでの食事はまったく行ったことがないですが、ここのダリのアフタヌーン・ティーは好きでときどき行きます。そのメニューはこちら(PDF)をご参考にどうぞ。
ここがそれをやっているという事はホテルのサイトを見ないと分からないくらいに控えめな情報です。雑誌なんかに取り上げてもらったり、大々的な宣伝をすれば良いのに、今、ホテル業界はみなさん集客で大変なのですから。でもそうしないのはホテル側の意思なのかもしれません。一回掲載されると色々な人が押しかけてきてホテルの雰囲気が崩れる恐れがあるからでしょうか。やっぱりこのレベルとなると宿泊客もシックだから気を使わなければと思い、アフタヌーン・ティー程度にドレスアップして出かけたら浮いちゃいました。いかにもおのぼりさん丸出しになってしまいました。
さりげなくテーブルにお部屋のキーを置いていた宿泊客はカジュアルだけどセンスのあるお洋服。でも、あんた本当にムーリスの客?と言いたくなるようなくたびれたジーンズとTシャツ、それもブランド物でさえもない、か、或いはあなた様は成金様ですねと言いたくなるような方もちらほらと。でもこれだけ様々な人を見かけても、サロンの広々さが混雑感を感じさせず、静かです。

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[329]ジャンポールエヴァンの店(2)

前号の続きで、そのロジックからするとこの店の料理がおいしい事は頷ける。そしてパティシエのお店だから見かけにもこだわっていることは出来上がったお皿をみれば一目瞭然。
カフェ飯が美味しい店の条件のひとつにクロックムッシュー、オムレツ、そしてフレンチオニオンスープの出来があります。これらの料理はシンプルだけど料理人の基本だから、特にスープはスープストックを取るのに時間とお金がかかるけど、でもスープだからたいした料金は取れないということもあり、今ではもう大抵のお店が出来合いのスープをチンするだけです。だからスープをきちんとお店のキッチンで作る店はあまりなく、あるとしたらすごいこと。
またクロックムッシューも大抵のカフェが工場生産で食パンにスライスチーズとハムを挟んでオーブントースターで焼いてい程度、ベシャメルソースがはいっていたら上出来よ!あれだったら私だって作れるわ。
そこら辺の住宅街のおやじカフェで出しているクロック・ムッシュー(お約束のスーパー特売品みたいなもの)が5~7ユーロ、観光地カフェだとこれにレタスが数枚横に盛られていてはやり7~9ユーロ。では、このジャンポール・エヴァンの店では9.60ユーロであるとしたら、この店が有名店であり、場所がサントノレ通りにある事だけで払えるかしら?
それはご心配に及ばず。ここのクロックムッシュは9.60ユーロに値する、いやそれ以上の美味しさだから。この店のそれは耳のないサンドイッチ用のパンを使っていて、中味はハムではなく、チキンのフィレ、とろけたチーズにはエストラゴン(というハーブ)をふんだんにまぶしてありました。見かけも味も申し分がない。
エストラゴンは(英語ではタラゴン)というハーブで香りが強すぎて私はあまり好きではありません。でも、フランスにはこれを使ったドレッシングなどあるし、チキンに合うハーブと料理本には書いてあるけれど、これまでエストラゴンを使った料理で美味しいと思ったものはまずなかったのです。
だから私の頭の中では、エストラゴン=まずい=食べきれない、だったのですが、この店のクロックムッシュを食べて初めてエストラゴンが美味しいと感じました。やっぱり料理は腕だわ。腕のある人が作ると美味しい。腕のない私が作るといつまでたってもエストラゴンは私のキッチンで能力を発揮できない、9.60ユーロですっかりエストラゴンを見直してしまいました。

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