〔55〕箪笥<新規の引出し>

自慢ではないが、私は洋服を沢山持っている。とにかく数え切れない程、ワンシーズンでは着きれない程、持っている。一時期流行った“お買い物症候群”という病気なのではないかと思ったこともあるくらいだ。

小さい頃に買ってもらった箪笥を今でも愛用しているが、何年か前からいっぱいいっぱいで、もうしまいきれなくなってしまった。しかたなく、ハンガーを使い、部屋の片隅にかけたりしているわけだ。

「片付けなくちゃ」と思ってもなかなか思い腰を上げられず、今日まできてしまったのだが、ふと“箪笥は人生に似ているな”と思った。

私は約10年OLをやってきて、生きていく上で「出す物」と「しまう物」、そして「出しっぱなしにしてもいい物」をいつの間にか身につけた。

私の場合、新しい会社が決まった時に今まで必要だったものは取り敢えず箪笥にしまう。そしてその会社での業務がマンネリ化してきた時に、そして「今だ」と感じた時に、その大切にしまっておいた物を、箪笥の引出しから出すのだ。

派遣はよく“スキル第一”と言われるが、実はそうでもない。確かに経験は必要だが、洋服に例えれば、それが全く流行遅れの物であったとしたら、持っていても着れなくなってしまうように、一瞬にして必要なくなってしまうのだ。

私の部署に4月から新しくAちゃんという派遣の女の子が入ってきた話しは以前したと思うが、今年で26歳になる彼女は、よく「前の会社では」という話しを持ち出して、「こうしたらどうですか?」という案を出してくれる。

業務に真剣に取り組んでくれる姿勢は本当に嬉しいのだが、じっくり聞くと「前の会社ではその方法でやっていけても、うちの会社でそのやり方じゃ、たぶん余計煩雑になっちゃうんだよねー・・・」てなことが多い。

それ以外でも、「この会社おかしいですよね?」と前の会社と比較して、疑問を私にぶつけてくることが多いのだ。「前の会社ではこうだった」という話しを大きな声でされ、ひやひやしてしまったこともあった。

何社も様々な会社を回っていると、確かに比較してしまうことも多くはなるが派遣先を変える場合は、会社の思い出、そこで学んだ技術はいったん箪笥の中に入れる方がいいのではないか、と思う。

「郷に入らば郷に従え」ということわざがあるように、やはりどんなスキルを持ってしても、その会社会社により、規則ややり方は全く違うわけだから、まずはそれに従い、新しい環境で対応していけるような、引き出しを1つ作る、そっちの方が先なのではないか、と思う。

改めて、洋服を整理しながら、そんなことを感じている私なのであった。

2002.07.05

〔17〕お仕事と身だしなみ

派遣として働いていると「意外と大変かも」と思うことの1つに服装がある。

私が今就業している会社は、正社員の女子には制服があるが、派遣や契約社員にそれは支給されない。以前就業していた会社は制服支給があったので楽だったが、今はその倍くらい服に金がかかるようになった。“オシャレ大好き”“新しい物大好き”。そんな性分だと貯まるはずのお金も全く貯まらない。

私が今の会社に入った頃は、今よりもずっと派遣社員が少なかったので、非常に目だってしまったものだが、それが逆に嬉しくもあり、またそれによってちょっとした緊張感もあったものだ。

しかし、派遣社員の女子がすごい勢いで増えた今、「私なんて地味で目立たない部類に入ってしまうのでは?」なんておかしな危機感を感じるくらい、ファッショナブルな女の子達が、うようよいる。ちょっぴり大袈裟な言い方をすれば「おや?この通路はパリコレのランウェイ?」と思ってしまうほどだ。

夏なんてキャミワンピ(肩の部分が紐状になっているスリップのようなワンピース)に素足にミュール、や、タンクトップにジーンズ地のサブリナパンツ、そして厚底の運動靴など、思わず「ここは結婚式場か、はたまた高原か?!」と思わせるような素晴らしいいでたちの女の子が何人もいる。しかも年を聞いてみたら、私とさほど変わらない。これにはビックリした。

ま、本人がいいのなら、それでいいかもしれない。“右を見ても左を見ても同じファッション”というのは、日本が生んだバカバカしい文化みたいなものだ。個性を主張することも時には大切だ。

がしかし、ここは会社だ。個性の主張も時に必要にもなるだろう。しかし、第一段階で主張すべきは、やはり、“スキル”なわけだ。

端末を必死で叩いている時、その肩ヒモは落ちてこないのか。落とした物を拾おうとした時、下着が見えてしまうのではないか。取引先のお客様がお見えになった時、その服装でお茶を出すのか。等など、様々な不安が頭をよぎる。

30を過ぎ、出せる部分が少なくなった(?)せいか、やたらと身だしなみに気を使うことが多くなってきた私は、そのような人達を見ると、どうしても“おいおい、正気かよ?!”と目を覆いたくなってしまうような衝動にかられてしまう。

私が冒頭に述べた「金がかかるようになった」というのは、少なくとも自分の「服装」というものを2つ(“プライベート用”と“会社用”)に分けているからだ。普通それは教えられなくとも、社会に出て働いている人間にとって当然のことなのではないかと思っていた。

ピクニックに行く時は「汚れてもいい動きやすい格好」をするから、転んでも汗をかいても、それをひっくるめて“楽しかった”と思えるのだ。美味しい懐石料理を食べに行く時だって同じだ。「自分のワードロープの中でちょっとだけ品のよい(と思われる)服」を着るから、料理の味、その時の会話など、全てをひっくるめて、“美味しかった”と思えるのだ。

身だしなみも大切な調和の中の1つであり、その日のテーマを楽しむための大切な道具である、というごく当たり前のことを忘れてしまっている人が年々多くなっている気がする。

先日人事部の人と帰りが一緒になったエレベーターの中でこう言われた。「今の派遣の子たちの服装はすごいね。今上の方でもちょっと問題になっちゃってるんだよ。どうすればいいのかな」

彼がわざわざ同じ派遣である私に言ってきたのは相当なやんでの事だったのだろう。思わず私もどう答えていいかわからず、同じ立場の人間として非常に恥ずかしくなってしまった。

単なる身だしなみの話を「派遣」という枠で括るというのもおかしな話だが、“派遣=腰掛け”“派遣=お気楽”という図式が成り立ちつつある、うちのような企業から見れば、「そう思って下さい」といわんばかりの行為にもなりかねない。「派遣社員というのはTPOを知らない、ちょっと頭の弱い人達の集団」というレッテルを貼られかねない。少なくとも私の仲良くしてる派遣仲間の中にはそんな人は1人もいないのだから、それだけは困る!

上に着ているタンクトップをプレーンな白のシャツに変える、ワンピースにカーディガンを羽織る、そんな小さい一工夫で全然違った印象を与えることができる、それがファッションの醍醐味なのだから、その辺をもちょっと活用してほしいものである。

こうなったら、うちの会社専属、風紀委員長“派遣ビューティーアドバイザー”にでもなろうかなぁ。

2001.10.04