[04]アカサギとの出会い

私が騙されてきた、のちにアカサギと判明した男との出会いは私が夜のバイトを始めたころである。その男は、私が入店して3日後に店に姿を現した。
男は、自分の親以上の年かっこで私が恋愛の対象にするはずもない男だった。それなのに、男と親しくなり私がこれほど騙され続けることになったのは、男の巧みに女を操る天才的話術のたまものであろう。
もちろん騙されてきたこの6年間に関しても私は男に恋愛感情を抱いていたかといえばそれは違うのだが、男に対して全く感情が無かったとも言い切れない。親しくなるにつれ心にスキが出来てくるのは然るべきことで、その心のスキを巧みに操られてしまったのだ。
私は、店の託児室に子供を連れて行っていたのだが、まず初めに男は子供の世話をしてくれたり子供にお菓子を買ってくれたりした。ある時、子供がおねしょをしてしまったのだが、その時もとても親切に世話をしてくれていた。私の元夫は、実の子供に対しても食事の世話はおろか、入浴なども殆ど協力することがなく毎日呑んだくれているような男で『子供の世話は女がやるのが当然』と豪語するような奴だったので、その男の親切さにはちょっと驚いたものだ。
男や店の子達と話をする中で、その男の住まいが近所だということを知る。また、男の母校が私と同じだという話で盛り上がったこともある。当然だが、母校が同じということは私の学びの先輩ということである。そして徐々に私と男は親しくなっていったのだ。
それからの男は、子供がお腹がすいただろうと食事をご馳走してくれたり、ジュースを差し入れしてくれたりととてもマメでごぼんのうだった。私はあまり人にお世話になることが好きではないのだが、『気にするな』と頼みもしないのにご馳走してくれるのだ。
食事をしながらいろいろな話をした。子供のこと、私の元夫のこと、どのような理由で離婚することになったのか、店で働くようになった理由、借金の有無、再婚するつもりはあるのかなど私の人生を左右するような事を次々と聞き出していった。一種の人生相談のようであった。『借金があるなら返してしまえ。俺が貸しておいてやろう』や『まだ元夫に未練があるのだろう・・・それなら俺が仲をとりもってやろう』などと言い出したこともあり、私はこの人はどんな人物なのだろうと思ったものだ。
そうやって話をする中で、男はこの店の経営者である事実をあかすことになる・・・
早乙女夢乃