[28]男の精神解放 一.

男の精神解放――これは遅れているね。
現在のシーソーは、あきらかに女のサイドに傾いているからね。
今後も、ますますその傾向は強まるだろう。
女のサイドがますます重くなり、シーソーが一方に傾くとすると、男のサイドはますます惨めになる。放っておけば、男の価値はさがる一方になる。
ここでの話が、いずれ花開き、男の精神解放につながることは十分考えられる。どのみち、放っておいても起こることは起こるけどね。
自然は、男女のバランスを保つために作用する。もし、それがうまく働かなければ、破壊のちからが働くだけだ。
さて、女は男への不満がおおいが、男のほうでも女への不満がたかまりつつある。不満というものは、一方だけでは成立しないからね。
ただし、男というものはそれを表現しない。できないね。
そもそも、日本文化そのものが自己主張が得意でないよ。
昔の女は、黙って男のうしろを着いていくことが美徳とされた。
そして、これを打ち破ったのがウーマン・リブだった。
女はみずからを解放して、自らの性のために自己主張をしはじめた。女の柔軟性が発揮されたわけだ。
自分で、自分の性を解放するしかないからね。他に誰がやってくれる?
彼女たちのやったことは正当を帯びているよ。
男はいまだに自己主張をしない。できない。
すでにパワーは女にシフトしており、女にへつらい、萎縮すらしている。
男が男のために自己主張するのは、男らしさによれば格好悪いとなる。それによれば実に男らしくなく、潔くはないらしい。あるい
は、へつらうことに慣れきってしまったのかもしれない。
女が自己主張するなど、昔は醜いと蔑まされたり、冷ややかな視線をあびたようにね。だからウーマン・リブだって、当初は、きっと苦労しただろう。なにしろ当時は、女が自己主張するという発想そのものが、ほとんどの女になかったのだから。
時代は移り、現在、あなたがた男はどうなった?
主張すべきことを主張しないでどうなった?
毎年、三万人を越える自殺者のなかで、実に七割が男だよ。男だからしかたないというのが今の風潮だね。
え? 男だから?
私にいわせれば、性差によって、おおきな差ができている実態にこそ目をむけるべきだよ。そこに問題が潜んでいる。
確かに、中高年の男は、今の日本でもっともどうでもよい人々だ。
魅力がなく、価値がないので、どうなってもたかがしれている。
また、現在の日本は、男女のどちらの子供を欲しがっているかね?
男女の産み分けでは? 親の意識は?
私の知りうるかぎりでは、7、8割が女の子を欲しがっているよ。
日本の現状とはそういうものだよ。
男女どちらの子を欲しがるか? ――というのは、男女のパワーをもっとも象徴的にあらわす指標だよ。もし、あなたが生まれ変わるとしたら、どちらになりたいか? ――その答えが、そこに反映されている。
どちらの性が、精神的・社会的に優位であるかを、これ以上に物
語るものはないよ。
かつての日本では、実に男の子を欲しいと答えたほうが多数であったことは容易に想像できるよ。いずれ逆転するだろうが、現在でも男が優遇されている中国では男の子を欲しがるようにね。
あなたがたがいつまでも自己主張しないのならそれでいい。沈黙はいい。
けれど沈黙がすばらしいといえるのは、潔いといえるのは、自己主張を経験した人だからこそだよ。自己主張や表現を実践し、知りつくした後だからこそ、沈黙がすばらしいといえる。
自己主張ができないのと、やらないのとは訳が違うよ。
さて、どうしたものかね?
椎名蘭太郎