男女――あなたはその片割れだ。
世界はシーソーによってできており、あなたはシーソーにふかく根づいている。
実際、あなたはシーソーそのものなのだ。
右が生まれたときより、自然に左が発生した。
右が重くなれば左が軽くならなければならず、左が重くなれば右が軽くなる。
あなたが男だというなら、女がいるだろう。その逆もまた然りだ。
すべてのものには栄養の元になるものがあるが、シーソーに関しては実に欲求とコンプレックスがそれに当たっている。
どんなに美しいものでも、いや、美しいからこそ醜さとコンプレックスが必要になってくるようにね。
例えばだよ、大金を欲するチャレンジャーをみたまえ。青年実業家や投資家をね。
金を崇拝する者にかぎって、金にたいするコンプレックスがつよいよ。貧しければ貧しいほど、金にたいするコンプレックスがうまれ、貪欲になることはよくある話だ。
シーソーというものは、一方の極にあればあるほど、もう一方の極にうつりたがる。
一方の極というのは実に苦しいポジションだからね。バランスから遠のき、極に移れば移るほど破壊のちからが増していく。
これはなんということだろうね。
醜い者は、醜いがゆえに美しさに人一倍あこがれる。
醜さを憎むようになる。
男女だっておなじこと。
あなたが男らしくあろうとすればするほど、コンプレックスがうまれてくる。
女に憧れるようになる。
これは、どうしようもないシーソーの物理的な作用だよ。
極によればよるほど苦しくなるからね。
政治家はたいそれたことを言うが、その背後には何がある?
彼らの仕事は、大衆や国を動かすものだ。権力のちからを得たものだ。
政治家を目指すものほど、他者にたいしてコンプレックスを抱いているのは容易に想像できるよ。
彼らは力を、他者にたいする力を欲している。逆にいえば、他者にたいして、なんと自分が無力とおもってきたことか。
他人にたいしての無力感が、力の無さが、政治家という化け物を目指す動機になることは少なくないよ。
虚栄心がなくなれば、社会的な影響への動機もうせるだろう。
これは、慈善事業家すら例外でない。
彼らは他人のために、人助けのために、自分を犠牲にして働こうとする。
なぜかね?
彼らは、他人にたいして何らかの贖罪の意識、罪の意識があるのではないかね。実際は自分にたいしてだがね。
そもそも、どうしてそこまで人を助ける必要がある。
どうして強引にしなければならない。
どうあっても人助けをしなければならない、と決めつけることはまったくないだろうに。
助けたいとおもったときに助ければ、ありがままの姿であればそれで済むことでないかね。
なにも、決めつけることはないよ。
欲求とコンプレックスなしに、シーソーはありえないよ。
いや、この世界の美しいものはすべて、醜いものやコンプレックスを栄養源として誕生している。
シーソーとともに生きる我々は、そのことをしっかりと覚えておくべきだよ。
椎名蘭太郎
カテゴリー: 男と女のシーソーゲーム-椎名蘭太郎-
男の世界は終焉したのか?それとも一時的なものなのか?人類が生まれ、男と女が存在し、何万年もの間繰り返してきた男と女のシーソーゲーム。椎名蘭太郎が語る男の精神解放と女の駆け引き、そして本当の男女のあり方。
[36]時をつかむ女
時代は常にうごいている。
世界にも、時代にも、盛衰というものがある。
それはどうやっても止まらない。
永遠にくりかえされてきたシーソーの産物。
気をつけなさい。
心しなさい。
今やあなたたち女の時代が到来している。
豊かな実りの時代がね。
多くの文明は、繁栄のあと、衰退、滅亡をくりかえした。
それは真に、生命のバイオリズムのようなものだった。
もしあなたが女なら、今の時代に用心深くなるはずだ。
いくら警戒しても、警戒しすぎるということはないだろう。
いわばあなたは、成功者の地位にあるのだ。
長年の年月を経て、成功という果実を手にした状態にある。
しかしだよ。
成功者は、成功にいたったときより不幸に転じる。
成功するまでは、あなたは希望をもっていた。
気力に満ちあふれていた。
将来に夢をもつことができた。
でも今や、あなたは成功の果実を食べてしまった。
あなたは目的地まで達したのだ。
では、これからどうしたらいい?
どうやって生きていけばいい?
時間は永遠につづいていくのに。
成功したからといって、それで時間が止まってくれるわけでもないのに。
こうして成功者は、成功したときより不幸に転じる。
あなたはもはや、希望がもてない。
気力がうしなわれる。
将来の希望もみえない。
成功によって得られた喜びも、すぐに消えてしまうだろう。
人々は金をほしがるが、それは金がない者の贅沢な悩みだ。
金をあまりあるほど得た人は、金によって叶えられる希望をうしなった人々だ。
金で得られる喜びなどたいしたものでない。
すぐに飽きてしまうよ。
金を得た人々は、金では幸せを買えないことを学ぶだろう。
美しさもおなじこと。
美しさをもとめる限り、あなたは醜さが迫りよる苦しみから逃れられないだろう。
いずれ誰しもが老いる。
いや、我々は日々、年老いて醜くなっている。
美しさに固執するかぎり、あなたはけっして幸せになることができない。
それどころか、不幸を約束された人、といってもいいぐらいだ。
夢や目的――。
夢はいずれ叶えられ、成し遂げなれる。
すると我々は、また虚しさがこみあげてくる。
あなたはふたたび、新たな夢を追いはじめるだろう。
我々は、このようなことを永遠とくりかえしてきた。
あなたたち女は成功者だ。
今や繁栄期にさしかかろうとしている。
心しなさい。
気をつけなさい。
真の幸せは、けっして外から運び入れることができない。
金や美しさ、才能では得られない。
あなたのなかにある、意識だけがあなたを導いてくれる。運んでくれる。
椎名蘭太郎