男は遅れている――と何度も言ってきたね。
だとすれば、男は遅れをとりもどし、既成概念から解放されなければならない。これを書く、理由の一つがそこにある。
男が美しさをめざす――ということも実はおなじこと。
彼らが美しさをめざすようになれば、すでにその時点で精神解放は終わったとみていい。ほとんどの問題は、それで解消されることだろうからね。
現代は、ほんとうに見た目が重要な時代だよ。日本ばかりでなく先進国ではね。それがなければ物事がうまくすすまないぐらいだ。
それに、男が美しさをめざすほどに素直になれたら、その時点でここで書いていることも意味がなくなるよ。力関係にしても、男が重くなることでバランスがとれるようになる。
でも、勘違いしてはいけないよ。男の支援をしているからって、女と敵対しているわけじゃないよ(笑)。
ただ、現状のバランスからいえば、男のほうが支援を必要としている。それこそが重要なことだからね。
さて、それにしてもやはり男は遅れているよ。なにより精神面で遅れている。
最大の理由は、「男たるもの・・・」的な発想がまだ生きているところにある。
子供の頃からそれを聞かされ、繰り返されたことによって、そう思い込み、彼らはまさしく「男らしくあらねばならない」という脅迫概念によって占拠されてしまっている。
男の場合、まだ昔ながらの概念が生きている。もちろん、それには理由がある。
すべてのことには原因があるが、男らしさの概念が生き長らえていることに関しては、男らしさの概念そのものに生き長らえるためのエッセンスがある。そこを見逃してはならないよ。
考えてごらんよ。男らしさというのは、あまり言い訳をしない。クドクドと話さない。見方によれば、自己主張をあまりしてはいけなくなる。
ここにすべてのトラップがある。物事を変えるためには、主張しなければ変わるはずがないよ。どうやって変われる。それが、彼らの古い因習にしたがえば、その変える力の根源を否定されていたんだ。
これでは変われないよ。頭が固くなるのもしかたない。言い過ぎることがいいはずがないが、少なくとも日本の男の場合はあまりにも胸のなかにしまいすぎるよ。少なくともあなた達の場合には、もっと主張して、自らの立場を変えていくべきだよ。
あなたたちは今、非常に軽んじられているんだよ。オヤジ、オッサン――というのは今や普通の呼びかたになろうとしているが、これは相手を軽視する呼び方だということを忘れてはならないよ。世の中全体が、男を軽視する風潮が生まれていることをね。
それが証拠に、女にむかってオバンと言ってみるかね?(笑)。きっと笑えないよ。
自らの地位は、自らが変えなければ良くなるはずがないよ。
椎名蘭太郎
[29]男の精神解放 ニ.
男も美しくあるべきだ――といえば世間の反応はまだ冷ややかだね。おそらく、「女みたい」「オカマじゃない?」――というところに落ち着くだろう。
女の場合、「強く、美しく」は今や当然であるが、男の場合は考えかたが遅れている。美しさを公然と目指すには抵抗があるようだ。
でもね。彼らも、女と同様に、強さだけでなく美しくなることに興味を持っている。持ってはいるが、それを目指すだけの環境になく、勇気がない。
香水などを使ったとしても、言い訳をしながら使用する人のなんと多いことだろうね。
どうして彼らが、こんな惨めな状況にあるかといえば、それはただ、堂々と自らの権利を主張しなかった、の一言に尽きる。
もちろん、なんら男が美しくある必要はないよ。好きなことを好きなようにやれればいいだけなんだから。主張だってしなくていい。
むしろ、美しくなく主張しないことこそ、美しいことかもしれないね。
だって、みてごらんよ。自分のことを主張する人々をね。彼らには争いが絶えないよ。
主張する人々のもとには、つねに怒りと悲しみのエネルギーが蔓延している。誰とやりあっているのかといえば、実は、自分自身とやりあっているに過ぎない。それらの不幸なエネルギーは、常にあなたとともにあったのだからね。
なんだったら保証してあげるよ。自己主張がつよすぎると幸せになれないとね。
ただしだよ、選択権をえることは大事だよ。やるやらないの選択権。
それに男が着飾ると、あなたは違和感を覚えるだろう。
それはいったいなぜかね。これまでのあなたに媚びれついた記憶が正体でないかね。
美的感覚にしても他のものにしても、人はこれまでの記憶から異質なものに拒絶をしめすからね。
男が着飾ると、これまでのあなたの習性が敏感に反応する。汚臭をかんじる。
人は習性に服従する生物だ。一度、ついた感覚とイメージはなかなか変えられないよ。
ただし、それもおおきな障害にはならないよ。時間はかかり、初めは苦労する。でも、年配の女は今では派手な服を着るようになった。昔では考えられず、異質であったことが、今ではおおきな抵抗はなくなった。
どちらにせよ、自分らしくありたいなら、避けたり誤魔化したりせず、しっかり主張するといい。まずはそれからだ。男も、「強く、美しく」を目指してもいいね。
これは逆に考えることだってできるよ。今なら、着飾る男は少ないから、希少価値がつく。となれば、それはおおきなチャンスにつながるとはおもえないかね。
椎名蘭太郎