男と女は、シーソーのなかで動いている。時間も、シーソーに捕えられる。世界はまるで、シーソーによって弄ばれる、あやつり人形のようだ。
ほら、時間をみてごらんよ。私たちが時代と呼ぶものを――。
時は、人以外につうじやしないよ。だってこれは、人が編み出した便宜上の道具でしかないんだから。人以下にも、以上にもつうじるものでないよ。
植物や犬に時間の概念があるとおもうかね?
神が、時間の概念を必要とするとでも?
そんなわけがないよ。時は、たんなる概念だよ。
過去?
未来?
現在?
どこ?
時間の概念を必要とするのは人間だけ。人が時間を必要としたから、それらの概念を生みだしただけのこと。それ以下でも、以上でもない。ましてや、時の概念がうみだす時代とはいかなるものか?
男であること、女であることもおなじさ。
それを必要とするのは一定の生命だけ――。それ以下の生命も、以上もそれを必要としない。
――それは一面。無限のなかの一つ。
ある時、ある者は自信をつけ、自分のことを強くなったとおもう。でも、べつの時、その者は自信をうしない、やはり自分はただの弱虫だったとおもう。
これも変わりやしない。単なるシーソーさ。
確かに、あなたは強くなったり弱くなったりする。時間とともに、シーソーのなかを揺れ動いてきただろう。
でも、それは確かかね?
本当にあなたは強くなったり弱くなったりしたかね?
――それは一面。あなたのなかの無限のなかの一つ。
シーソーの片方に強さがあり、もう片方に弱さがある。それらは、とりとめなく行ったり来たりする。
一面に執着すると、その一面がかずおおく発生するが、それでも一面であることに変わりはない。
シーソーは、つねに揺れ動いているが、あなたがあなたであることにちがいはない。
問題は、一面を自分の本質とかんちがいするところにある。
よく見てごらんよ。ほら、じっくり観察するんだ。
シーソーには、特徴的な動きがあるだろう?
その動きをじっと追っていくんだ。
たとえば男女。
男女を、シーソーの片方ずつに配置してみる。あなたも、どちらか片方の存在だ。男女の二つがあってこそ、シーソーは成立するんだから。
でも、実際はそうじゃないよ。だって、あなたは一人で成立させているじゃない?
人類の男女のことじゃないよ。あなた個人のことだよ。
シーソーは他でもない、人の心のなかで起こりうる現象にもかかわらずだよ。
そこにはカラクリがあるだけなんだ。
あなたに強さがあるかぎり、おなじぶんだけ弱さが生まれる。これはどうにもならない。作用・反作用の単純な計算式なんだから。
そして、もしあなたが男の極に行きつくとき、次にむかうは女しかない。女に行きついたら、男に移るしかない。
だって、どこに行くね?
シーソーは二つしかないんだよ。
どうかね?
シーソーは、二つの極を行ったり来たりする。でも、どちらの極にあろうとおなじこと。私たちは、男女を経験せざるをえない。シーソーに揺り動かされながら経験する。シーソーの原理からいえば、経験することに意義がある。シーソーそのものが、かけがえのない一面だったんだ。
椎名蘭太郎
[19]成功報酬ではない故に
データマッチングで一致した相手から申込書が来て、断ってしまったのだが、後に全国版の情報誌に掲載されているのをみて、逃した魚は大きい?!とばかりにこちらから改めて申し込みをしてみた。
ところが、一度お断りした相手には『お取り次ぎ』ができないということで、コンピュータ自動システムから取り次ぎ不可の連絡メールが入る。ちょっと残念な気もしたが、別件ついでに担当者へ「絶対無理?」と尋ねてみた。すると、事情によっては相手の方の承諾が得られればできるということらしい。
紹介書を頂いた当時、お会いしていた男性がいたので、その他一切の紹介書はお断りとして返却しました、と告げると、暗に「すぐに会わずに紹介状は複数確保しておいて並行して…」みたいなアドバイスを頂いた。会わなければ恋愛は始まらないのではないか。また、誰彼に対して中途半端な状態で接して、果たして誠実で真っ当な恋愛が進行するのだろうかと疑問を抱いたが、まあ仕方ない。
なぜ仕方ないかと言えば、それがオーネットのシステムそのものなのだ。『成婚料は頂きません』と得意げに唱っているが、それは成功報酬ではないということだろう。弁護士にしろ、探偵にしろ、成功報酬があるからこそ、がんばってその職務を遂行するのではないか。
オーネットの場合は、成婚すれば退会してしまうのだから、成婚せずに、在籍してくれる方が儲かるわけである。結婚相手を探し続ける男女がいることで利益を生んでいるのだ。新しく入る方には紹介する相手はたくさんいますよ、という売り文句にもなるから、それは実に好循環を生み出している。お相手を紹介はするけど、結婚はしないでね、的なシステムなのだ。
本城愛子