日本では、会社ではたらく三割の男が十二時間以上の労働であるという。これで連想するのは、イギリスの産業革命だ。当時の労働者階級は、過酷なあつかいで有名だった。むごたらしい環境に、たび重なる労働時間。まるで現代の日本の男のようだ。
それはどうしようもないことかね。そう、たしかに身分差別や奴隷制度にしても、昔は否定されるべきものではなかった。むしろ、それは的を射た考えかただと思われていた。そればかりではない。いつの時代も人々は、それはどうしようもない、と口をそろえる。時は移りかわろうとも、狂気の時代はつづいていく。差しあたり、現在は狂気の競争が世界をおおいつくしている、というべきだろうか。
じゃあ、どうしたらいい?なにができる?
男女の役割をみるといい。世間の風潮は、男も子育てや家の仕事にもっと参加すべきという。が、具体的な進展はない。そもそも男は、子育てをしたくともできる時間がない。一方、女は主婦になることも、仕事でキャリアを積むこともできる。望みさえすれば、二つのうちの一つを軸として選択することができる。また女は、仕事でキャリアを積む環境がととのっていないという。けれど、実際はそうではない。彼女たちは、はたらき蜂のように一生涯はたらくことを望んでいない。それだけのことだ。彼女たちが、フルでキャリアを積む覚悟があるなら、それを拒むなにがあるというのかね。が、男の場合は状況がことなる。彼らには選択幅がない。家庭を軸として選ぶことは認められていない。彼らは、競争のためのロボット戦士になる以外に選択幅がない。
人々は、どうしようもない、とぼやきつづける。が、本当にそうかね。そのまえに、あなたがたは粘りづよく主張したかね。戦後の日本は、ストやデモを起こして主張した。フランスの移民のみならず、先進各国の人々は今でもデモを起こしている。彼らは、主張しなければなにも変わらないことをよく知っている。
それとも、そんなに狂気の競争に遅れをとりたくないかね。いずれ世界は、とおからず競争に疲れはてる。極にかたむきすぎたシーソーは、もう一方に動かずにはいられない。むしろ、競争に支配される者を嘲笑えばいい。競争の虫より、バランスある時間の使いかたをしたほうが幸せになれるのに・・・。金と時間のバランスをだよ。そのためにも変わらなくてはならない。あらたなライフスタイルを確立させるのだ。
でなければ、あなたがたロボット戦士はうまく使われるだけだ。自分の意志で働くのならともかく、働くことを強要される。考えてもみなさい。派遣やアルバイトが増えたのは、いったいどういうことからかね?誰がそれを望んでいるのかね?企業が、都合によって派遣やアルバイトを要請するかぎり、低所得者が増えるのは避けられないよ。あなたがたは口をもたない、企業のロボット戦士というわけだ。
男女でも仕事でもおなじことだ。主張しなければ、消耗品となって使い捨てとなる。主張しなければ、変わるはずもない。
椎名蘭太郎
[13]奪われた心と体
男が私を金庫番に仕立て上げるのと時を同じくして私と男の関係は更に親密になっていった事を否定できない。
出会ってから一歩一歩私を金庫番にするべく準備を始めていた男。男の家の鍵を持ち、男の生活用品を買揃え、男に送迎をして貰う私。私に立替払いを頼み、お金を引き出す男。そんな仲であることに違和感が感じられないようになっていた。
ここまでの関係にもなると、読者の皆様から「体の関係はなかったの?」なんて声が聞こえそうな気がしてくるので答えておこう。はたして体の関係はなかったのか・・・
結論から言えば、「あった。」ことになる。ここで「なかった。」と言ったところで誰が信じるだろう。嘘偽り無く「あった。」これが事実。ただし、この体の関係さえもアカサギの作戦の一部だったということは付け加えておきたい。
とにかく男のテクニックは上手かった。キスの味。女の扱い方。どうすれば女が感じるか。どうすれば女を絶頂まで導くことができるかを知り尽くしていた。男と濃厚なキスを何度もした。男の前で裸になり体を許した。男の手と舌は私の乳房を這い回し下の方へ。遂にはあそこへ伸びていった。私の体は淫らにも感じ始め震えだした。遂には絶頂まで達した。何度も何度も絶頂感を味わった。今までに感じたことのないような絶頂感だった。
そんな男のテクを経験した私は、男との関係にハマってしまった。男を愛していたからというよりも男のテクに参ってしまったのだ。男の下半身は役に立たない。つまり男と合体することは不可能なのだが、その状態で女を絶頂に導くことができるテクをもった男。ただ者ではないことを理解していただけるだろう。
また、男と合体できないことは私には好都合だった。体の絶頂感を味わいながら、女に付きまとう「望まない妊娠」という結果になりうることがないからである。
しかし、男も同じだった。男の下半身が役に立たないことは、後々面倒なことにならずに女を自分のモノにする、つまり私を金庫番に仕立て上げる為の作戦として都合よく利用していたのだ。
この時点で、私の心と体はアカサギに完全に奪われてしまっていた・・・
早乙女夢乃