1年間、将来にだんだん不安を感じ始めて毎日気持ちが不安定だったの。
出戻ってきてしまった私は近所の人から興味本位で心配されたし、
母親は近くに住んでいる親戚からいろいろ言われてかわいそうだった。
父はとても怒っていて私の存在を完全に無視していた。
居づらくなった私は一人暮らしを始めることにして家を出た。
荷物はとても少なかった。
最後の荷物を運び出そうとしたとき、父に怒鳴られた。
「もう二度と戻ってくるな。」
一人ぼっちの夜は初めてで、想像以上に寂しかった。
そのうち、会社で仲のよかったカナと毎日遊びまわるようになった。
私はどこでもモテた。
でも知っていたの。私に魅力があるわけじゃないってこと。
ブスじゃなくって無難。スキがあって手に入りやすそう。
毎日違う男と一緒にいた。
毎日違う男と寝た。
「気持ちよくして。もっと、もっと。」
セックスって気持ちいい。私は立て膝になって胸を舐めさせる。
男の頭を撫でながら、赤ちゃんみたいに乳首に吸い付いてくるのを上から見下ろす。
男の手を私の下のほうに持っていく。
「もっと気持ちよくして。はやく…。」
それでね、私の中に入ってきたときに聞くの。
「私のこと好き?」
みんな同じ答えが返ってくる。「すきだよ、彩花。」
ばかみたい…。 うそばかり。
どうでもいいや。
そう思いながらも一緒に気持ちよくなる。
なにやってんだろ。
エッチをする度にまた一つダメになった気になる。
可笑しくて笑えてくる。
一緒に涙も出てくる。
終わった後に必ず思う。
明日の朝、目が覚めませんよーに。いなくなっていますように。
でも必ず朝はきちゃうのよ。
逃げてばかりの自分が嫌い。
11月の始めの一人の夜。寝られなくて、いつものように睡眠導入剤を飲んでぼーーーっとしていた。
何錠飲んだかな。
いつもよりいらいらしていてね、たぶん20錠くらいかな。
一緒にお酒も飲んだ。
寂しい。寂しい。寂しい。
誰か助けて。
あんなに毎日違う男といたのに、そばに来て欲しいのはその誰でもなかった。
みんな、からだの繋がりだけだもの。
わからなかった。虚しさが身体中に広がる。誰に一緒にいてほしいのかな。
ワインを一本空けて、壁で割った。
手首に当ててみた。
ああ、死んじゃえばいいんだ。
ここちゃん、ももちゃん、ごめんね。
子供に会ってきたばかりだった。
帰り際、泣きじゃくる二人の顔を思い出す。
中途半端に会いに行くほうが酷じゃないの。かわいそう。
カナの言葉を思い出す。
あの子達は旦那のところで幸せに暮らしてる。
私が会いたいと思うのは私のエゴ?
私があの子達の生活を乱しているの?
思いっきり引いたら血が出てきた。
気がついたら次の日の夕方だった。
死ぬこともできない臆病者。
涙が出た。
夜10時過ぎまでそのままでいた。
フッと思ったの。遠くに行きたい。見たこともないところに行きたい。
会社の同僚が来月からワーキングホリデーでフランスに行くの。
私も行けないかな。お金貯めよう。
私ってほんと賢くない。
でもそう思ったらそれしかないって思えちゃって、早速パソコン開いてバイトを探した。
本当に偶然に近所のスナックが募集していた。
すぐに電話してその日のうちに面接に行った。
その日以来、男遊びはパタっとしなくなった。昼間の仕事が終わると走ってバイトに行った。
初めての水商売。
つぶれそうなスナックで、ママと私ともう一人かわいくない女の子だけのお店。
お客さんが来ないと、機嫌悪くママは電話しまくる。
その日は12時過ぎてもお客さんが来なくてママはとても不機嫌だった。
タバコ買ってくるように言われてワンピの上にストールを羽織ってエレベーターに乗った。
いかにも場末のスナックといった感じでエレベーターは赤い床に赤い壁。
ボロボロで乗っているといつも切なくなる。
でも今の自分にピッタリなような気がして、そんなところで働いている自分が少し可笑しかった。
エレベーターが開くと正面に黒い車が止まっていて助手席が開いた。
ジャージ姿のその人と目が合った。
「お前か??。ママが言うとったのはぁ。」
今でもはっきり覚えている。
優しい笑顔。すごくすごく優しく笑うの。
彼だった。
「あ、、、私この人がいなくなったら辛くなりそう。」
初めて出会ったのにそんなこと思うなんておかしいけれど、そう思った。
「すずちゃん、ひさしぶりじゃないの??!」ママは急に上機嫌。
鈴木淳司。35歳。少し離れたところに奥さんと小学生の子供がいるの。
単身赴任。
最初から知っていたから好きにならないようにしようって思った。
でも好きになるだろうなって分かってた。というよりも、そのときにもう好きになっていたんだと思う。
その日、すずちゃんが携帯に貼っていた家族の写真を見せようとしてきたとき私は「見せてくれなくていいよう。」って拒んだ。それが証拠だと思う。
見なくてよかった。
見ていたら絶対今耐えられない。へんなところで賢いのね、私。
※登場人物は仮名です。
柊 彩花
[01]わたしのこと
はじめまして。柊彩花です。28歳です。
いつからこうなっちゃったのかな。思い返してみると私ってね普通に生きてきたことってないような気がするの。
きっといろんなことから逃げてる。ダメなことばっかりしているのに結局、誰かが側にいてくれて最後は誰かに甘えている。そんな彩花のこと聞いてください。
彩花の住んでいるところから新幹線で1時間半くらいのところに彩花の2人の子供が住んでいます。「こころ」5歳と「もも」2歳半。主人と別居して1年と2ヶ月。二人は主人と主人の両親が育てています。
先月、ついに離婚しようという話になり、今日弁護士さんのところに相談に行きました。1年半離れていたけれど子供の親権を取りたいの。別居した原因は性格の不一致と主人の暴力。
毎日、こころともものことを想って泣いたりたまに2人に会えるとお母さんぶっているくせに半年前から、既婚者の彼と同棲しています。単身赴任で彩花の町に来ている彼。月曜日から土曜日の夕方まで「夫婦ゴッコ」しているの。まっすぐな人。いつも前向きで一緒にいることがね、とても嬉しい。鬱だった彩花を救ってくれた人。薬を飲まなくても彼がいてくれたら不安に襲われることもなくなりました。
そしてもう一人の登場人物はパパ。パパって言っても父親ではありません。39歳で会社経営をしています。彩花は先月仕事をやめて今は専業主婦のような生活をしているの。生活費はそのパパからもらっています。
彼の前向きなところに惹かれて、彩花もそうなりたいって思ってる。なのに実際の私の生活はめちゃくちゃで矛盾と嘘だらけ。「離婚するんだ、私。」1年前、そう思ったとき、いろんなことがどうでもよくなったの。そんなときパパと会って贅沢な生活を見た。21歳で結婚して贅沢とは無縁の生活をしていた私。ダメになればいいと思った。だってもう28歳で人生失敗してるんだもん。どうなってもいいじゃない。そう思って私は1年前に愛人になった。
私と彼とパパと、2人のこどもとのいままでとこれから。
柊 彩花