〔33〕ギラギラ族

派遣社員には大きく分けて3種類の人種が存在すると思う。純粋に仕事のスキルの向上を目指す「仕事第一人間」、夢を追いながらサイドビジネスとして割きって働く「夢追い人」、そして、派遣された場所場所で仕事をせず、男漁りをする「ギラギラ族」。

今回はこの「ギラギラ族」についての話。

まず「ギラギラ族」というのはどういう人種か。特徴を挙げてみよう。
毎晩のように飲み歩いているので、出社は9時ギリギリ、または遅刻。
パソコンの中は飾り物でいっぱい。通ったついでにのぞきこむと、メール、又はペタろう(パソコンの中の付箋。ショートメールのようなもの)をやっている。画面にはキティーちゃんのカレンダー。
同類の女の子と社内の通路で立ち話。(基本的に“目立つ”ことを意識している為、笑い声が甲高い。)等などだ。
人間関係においては比較的平和だったうちの会社にも、昨年秋くらいから、この3つめに分類される「ギラギラ族」が異常に増えてきた。

“仕事帰りに男と飲む”ということを第一目標とし、様々な部署の男性達と日々飲み歩いている。男性達も「日の当たらなかった場所に日が当たり始めた」とばかり、ウハウハになっている。

そりゃ、男どもといちゃいちゃしながら飲むというのは、楽しいことかもしれない。特にミソジをすぎ、相手にしてくれるような殿方の減った私なんぞにはきっと「夢のような時間」なんだろうな。会社帰りに気楽にフラッとよれる店があったらありがたいし、更にそこで、気がねなくに語れる仲間がいたら、どんなにかいいかとも私も思う。

だが、ギラギラ族はそんな風に一筋縄ではいかない。「ただ飲んで楽しむ」だけではないのだ。そこには必ずと言っていいほど、艶っぽい噂が存在する。その殆どが色恋沙汰で“秘密”だの“不倫”だのという、小さな会社ではタブーであるべき噂が飛び交っているのだ。

今や派遣スタッフの中で一番社歴が長く、殆ど「社員同等」とみなされ始めている私はしょっちゅうそんなギラギラ族の噂を耳にしなくてはならない立場になってしまっている。

「しじみちゃん、またあのギラギラ女たち、営業部の奴らと飲みに行ってたみたいよ」「昨日と同じような服着てるもんね、昨日どこかに泊まったんだよ」などなど黒い噂が後を立たないわけだ。

「君達は一体何しに会社に来ているのだ。君達のようなそんなギラギラとした目で結婚相手探すためだけに会社に来るような人間は、一生懸命働いている派遣スタッフの品格を落とすだけなんだよ。」

思わずそんな風に蹴散らしてみたくなることがある。これもモテないミソジ女のひがみなのかな、と思う今日このごろ(笑)。

2002.01.25

〔32〕フェイドアウトの恐怖

先日入ったばかりの派遣の女の子が突然会社に来なくなった。1週間風邪ということで欠勤し、その翌週には彼女の配属する部に「交通事故に遭い、大怪我をしてしまったので通勤ができません。短い間でしたがお世話になりました」という文面のFAXが、送られてきたというのだ。

その話しは一気に広まり、「すごいよね。風邪ひいた後、怪我なんてなんだか嘘くさいし、そうまでして辞めたかったのかねぇ」「どうせバックレでしょ?」「ちょっと変わってる子だったもんね。トイレで会っても挨拶もできないしね」などとみんな口々に語っていたが、私はその会話の中にどうしても入っていけなかった。

その辞めてしまった彼女が“本当にフェイドアウトだったのかどうか”ということはわからないが、実は私も過去に一度同じような辞め方をしたことがある。

「派遣」として初めて働きはじめた会社だった。そこは古い体質の小さな特許事務所で、来る日も来る日もお茶汲みと膨大な数のコピー取りだけをやらされた。コピーするものがない時は、席で待機。机の上は自分専用の端末もなく、ガランとしていて、何もなかった。

「何か別のことをやります」といおうものなら、「いいの、いいの。派遣さんはコピー取りだけでいいのよ、ね?」とバカにしたような態度で返された。暇を食いつぶすのが大の苦手な私は、そういった状況で働くことに耐えられなかったというわけだ。

派遣会社の担当さんに相談しても「そういうものですから」の一点張り。当時の私は今ほど“派遣”というもののシステムを理解しておらず、ただオロオロうろたえた。

世の中はリズミカルに動いているはずなのに、自分だけ時が止まってしまったかのような凍てついた感覚。組織というものにせっかく属しているのに、確実なポジションというものがなく、ほっぽらかしにされているような感覚。

単細胞で経験が浅く、人に甘えれば何でも許してもらえると信じこんでいた私は、すがりつくものもなく、「ここを辞めることができたら、どんなにか楽だろう」「またプーに戻れたらどんなにか楽しいだろう」そればかり考えた。そして精神的余裕が全くなくなった時、私はフェイドアウトするということを選んだ。

が、その甘い夢の決断は思わぬ方向に向かっていった。

毎朝、8時半に起き、派遣先企業と派遣会社に電話する。身体はピンピンしているのに「頭が痛くて行けません」と連絡をする。それは非常に忍耐のいる作業だった。何故、自分がそんなことをやっているのかよくわからなくなった。

派遣会社からは1日に3、4回「具合が悪くてもなんでもとりあえず行ってもらえないか」という電話が入り、その度に「無理です」というのが精一杯で、今まで感じた事のないような(まるで神経をつねられているような)恐怖感が私を襲った。

2週間くらいたったある日、派遣会社の担当者から「“頼りにならないので、もう来なくていいです”と言われました。どうしてくれるんですか?」的な電話が来て、私はひたすら謝り、そのフェイドアウト劇は終焉を迎えたわけだが、今考えると「なぜあんなことをしてしまったのだろう」と思う。

今思い出しても身体中に寒気が走るくらいの出来事だった。

途中で徐々にこなくなってしまうような派遣スタッフは意外と多い。つまり今回の女の子のことも、私にとってはそれほど驚くべきことではないわけだ。だが、その度に私は自分がフェイドアウトした時のことを思い出す。そして何故か胸が締めつけられるような苦い感情がどくどくとわいてくるのだ。

ルールを破って、人に嘘をついて、家の中にこもって怯えていたみじめな自分。

あの時の派遣会社には本当に悪いことをした、と今でも思っている。もちろんその後、お仕事紹介の話しは来なくなり、私もそこから籍をはずしてもらったが、それでも心はスッキリするはずもなく、人生最大の汚点として、私の中にある。

2002.01.18