〔41〕終わってる派遣会社

私が所属している派遣会社は担当営業がコロコロ変わる。私は今の企業で約2年続けているが、もうすでに4人目だ。しかも去年の10月頃から担当になったこの4人目の営業は本当のクセ者で、悪い言葉で言えば、呆れる程のボンクラ野郎だ。

26歳、独身、1度転職をして派遣会社の営業になったらしい。羨ましくなるなるほど肌が白くきれいで、細くて小さい。前に「女にうまれりゃよかったのにね」と皮肉を言ってやったことがある。

喋ってる間は、そんな皮肉を言われようと、常に消え入りそうな微笑みを絶やさず、完璧なマニュアルが頭の中に入っているのか「そうですね」とか「スタッフさんのために」とかいう常套文句を繰り返す。

なんとなく不安になった私は「私が所属している部署、それから仕事内容を理解してくださってます?前任の方から引き継いでるはずですよね?」と聞いた。すると落ち付きがなくなった彼はバタバタとカバンの中をあさり、「はい。ちょっとファイルを見てみます」と言った。

呆れ返り、それと連動するかのように急におかしさがこみ上げてきた私は「あんた大丈夫?基本事項をちゃんと頭に入れてないと仕事できないよぉ。もしかしてバカ?」とちょっといじめてみた。

なんとそれでも彼はひきつりながら笑っていた。
最近、心の中や生活状況を整理し、今の企業と契約を切ろうと考えた私は、先日彼にその旨を伝えることにした。「6月でいったんこちらとの契約を切らせてください。今週中には課長の方に私からお話します。その結果をまた報告しますので、人事の方と調整してもらえますか?」と。

すると彼はいつもの笑みを顔にはりつかせながら「はい。そうですか。ではそれでお願いします。6月まではあと少しですね。後は適当にやればいいだけですね」と言ったのだ。

おいおい、オマエ何者だよ。私は瞬間異次元に飛ばされたような錯覚を受けた。

「はいそうですか」じゃないでしょう?まず辞める理由を認識すべきでしょう?私が辞めたら、その分そっちに金入らなくなるんだよ。それから「あとは適当」って何?最後の3カ月間だからこそ、悔いの残らないようにしっかり仕事をこなすべきでしょう。

気付いたら私は「あんたさ、本当に営業マン?あんたの場合はさ、辞めることが決まった後は適当に仕事をするんだー。ふうん。でもさ、それで給料もらってたら、詐欺だよね。マジでやばいよ。もう帰っていいよ。顔見たくもないから」と言っていた。

言いながら、どう反応するのかと彼を見ていたら、なんと驚くことに目をパチクリさせ、ひきつった泣きそうな笑みを返してきただけだったのだ。

その後、私はそのことを支店長に直に伝えたのは言うまでもない。私は全てを説明し、最後にこう言った。「これではトラブルが起こりそうで心配です。なんとか営業をもっとデキる人に変えてもらえませんか」と。

すると支店長は「山口さんのおっしゃる通りです。でも彼も私のかわいい部下なのです。勉強のためですので、なんとかそこのところをわかって下さい」と頭を下げてきたのだ。

おいおいおい、どうしちゃったんだよ。こっちにしてみたら一大事なんだよ。これまでのどうしようもない経緯を話した上で、これでは不安だから「しっかりフォローしてくれる、営業さんに変えてくれ」と言ってるの。私間違ったこと言ってる?あんたにとってはかわいい部下かもしれないけど、こっちにしてみりゃ憎たらしい営業なんだよ。スタッフのことを第一に考えないでどうすんの?

最近色々なトラブルが社内で起こるけど、これじゃ無理ないな。“支店長”と名のつくような人がこうなんだもん。と、私はスッカリ無気力状態になった。

私が所属してるのは女優のNちゃんがイメージキャラをつとめるM社です。ここの契約が切れたら、登録抹消してもらおっと。

2002.03.22

〔40〕なっちゃん事件

うちの会社は今がちょうど入れ替え時期だ。3月で辞める女の子(正社員・派遣共に)がやたらと多い。そういうわけで、最近また新しい派遣の女の子がボンボン入ってきている。

私自身もここにきて仕事のドタバタが続き、なんだか酸欠状態の金魚のようにあっぷあっぷしている。「仕事するのが嫌だ」という潜在意識のせいなのか、はたまた狭い社内に人が一気に増え、人口密度が増しているからなのか、わからなくなっているのだ。

私の隣の部の正社員の女の子も3月で退職を決め、その後任として新しい派遣の女の子が入ってきたのだが、これがすごい。なんと25歳で早稲田大卒。おっとりしたお嬢様風の女の子で、どことなくフジテレビアナウンサーの小島なっちゃんに似ている。

「どーして、そんないい大学出てて、派遣なんか選んでしかもうちの会社入っちゃうのかねー。気が知れないよね」「ま、今はそれだけ仕事を選べないってことなんじゃないの?大学出てたって実力で大手に入るなんて夢のまた夢だもん。」なんて会話を交わしながらも私達はそのなっちゃんに何気に夢中になっていた。

ところが、そのなっちゃんが入ってきて2週間足らずでトラブルは勃発した。

その子が入った部の部長は実に昔気質の部長で(仮にO部長としよう)、女の子をまるで召使のように使う。コピー1枚自分で取れず、「おい、取れ」。煙草がなくなれば「ほれ、煙草買ってこい」。正社員で今まで8年続けてた子もこれにはちょくちょく腹を立てていた。

お嬢様育ち(?)で、キャリアウーマンを目指すなっちゃんは、そんなことを1日の内に何度も頼まれ、実は溜まっていたものがあったらしい。なんと「あれはセクハラだ。あの部長をどうにかしてほしい。できれば異動させてほしい」と派遣会社と、3月で辞めるその正社員の子に言いつけたというのだ。
怖いもの知らずというか、常識しらず、というか。言っていいことと悪いこと、言っていい人とヤバイ人、というのが今の若者はわかってないのだろうか。どのくらいのキャリアを持っているのか知らないが、入って2週間で、自分の思い通りにことが進むと思っているところが、すごい。
もちろん派遣された企業での自分の立場や状況を、担当の営業マンに話すのは重要なことだ。当初提示された業務内容とそぐわない部分は、どこがどう違うのかしっかり見極めて理解をしてもらわないといけないし、部内の雰囲気や問題のある人がいる場合は、それも一言付け加えておいた方がいい。

なっちゃんが犯した間違えはそのあたりだ。入社して2週間で「この部長のやってることは“セクハラ”です」と言いきってしまい、更にはその(派遣された企業側の)正社員に言ってしまった。

結局その話しは人事を回り、ついにはO部長の耳にも入ってしまった。それを知ったO部長は怒り狂い「あんな女辞めさせちまえ。もう明日から来なくていいと言え」と怒鳴りちらしたというわけだ。
うっかり言ってしまったことが、社内で大きな問題になったことも知らないなっちゃんは、とりあえずその後数日普通に通っていたが、結局は辞めざるをえなくなり、パッタリ来なくなった。

派遣会社側にしてみれば、なかなかスタッフを送りこめないという厳しい昨今。しかもなっちゃんはテンプトゥーパーム(紹介予定派遣)という契約で入っていた。そうそうクビにはできるはずもなく、派遣会社の担当者も毎日謝りに顔を出してしたが、結局その努力はむなしく、契約は切られてしまったというわけだ。

いやはや。言いつける人を間違えただけでこんなことになってしまうとは。言った相手も悪かったが、ちょっと我慢も足りなかったね。

愚痴は入ったその日から言ったっていいのだ。「おかしいな」と思う点は指摘してもいいのだ。でもそれを実行に移す時は、言っていい人や場所があるということをちょっと考えなければならないわけだな。

最近、忙しさのせいか緊張感がなくなり、自席でボンボン暴言を吐いて、愚痴を言いまくってる私。なっちゃんの事件はさすがにひとごととは思えず、「ちょっと自重しよう」と思わせてもらえた出来事だった。

2002.03.15