〔21〕自然のなりゆき

先日、ついに友人と「目黒寄生虫館」に行ってきました。前々から一度行ってみたかったせいもあり、非常に興味深く、楽しんで見てまわることができました。が、翌日、会社で同僚の男の子に「昨日寄生虫館に行ったんだ」とチラッと話したら「ええっ!?山口さん虫好きなんですか?!こわっ」となんだか汚い物を見るような目でみられてしまいました。(当たり前かな・・)私は“虫が好き”なのではなく、“普段目で見れないもの”を見に行ったつもりだったのですが・・・(笑)。認識の違いですかね。「言った相手が悪かった」というのはまさにこのこと、という出来事でした。

以前、“テンプトゥーパーム(紹介予定派遣)”という制度で入ってきた女の子のことを書いた。<“テンプトゥーパーム”とは、派遣会社との雇用契約終了後に派遣先企業に職業紹介されることを前提として派遣で就業するシステム>

私が見る限り、うちの会社にいる数多い派遣社員の女の子の中で、彼女はピカイチだ。人に対する態度、礼儀作法、服装、どれをとっても完璧にこなしている。性格も明るくハキハキ、そしてサバサバ。きれいにまとめたショートカットが“男にこびない、できる女”というイメージを完璧にしている。

派遣馴れしすぎて「こんな仕事できっか」「この面倒な処理なんとかならないの?」などと、うだうだ文句をつけたり、何かあるとそれを逆手にとって屁理屈を並べ、その場から逃げることばかり考えている私とはなんだか大違いだ。

人は自分にない物を持っている人に強く惹かれることがある。そんなこんなで私と彼女はいつのまにかずいぶん仲良くなっていた。

ある時ロッカーで「疲れたねぇ」「なんか美味しい物が食べたいねー」なんて他愛ない話をしていた時、「あ、やまぐっちゃん、私来月でここ終了なの。仲良くしてくれてありがとう。でもその前にお食事の件、本当に一度実現させようよ」と言われた。

「あー、そう」なんて聞き逃しそうなほど、サラッとした言い方だった。

ゆくゆくは正社員で、という契約で入ってきた彼女。まだこの会社に入ってきてから半年も経っていない。だいたいのことは予想できたが、「どうして?」と聞いてみた。

「やっぱりね、うちの部、新しく正社員の男性をとるみたいなんですよ。それでやむなく、です。」

正直ビックリはしなかった。うちの会社ならいかにもありえそうなことだ。会社という小さな社会なんてある意味では無法地帯だ。「そんなこと許されるの?」ということもいつのまにか許されている、そんな場所だ。

全ての会社がそうだとは言いきれないが、所詮企業なんてところは働いている人間1人1人のことまで考えてはくれない。

「仕事ができないから」「社風に合わないから」はともかく、派遣に至っては「年がいきすぎてるから」「愛想がないから」「ブスだから」そんな裏理由で契約を切られることは多い。私はそういう例を沢山見てきた。それが実態だ。

ヒックリはしなかったが、むしょうに腹立たしくなった私は「そんなの契約違反じゃない?私だったらその場で会社くるのやめちゃう!こっちにはこっちの生活があるんだからさー。ひどい話しだよ」とまたしてもまくしたてた。

彼女は「私もそう思ったんだけどねー。自分に何か落ち度があったのか、不安にもなっちゃったし。最初にそう言ってよ、途中で条件変えないでよ、って頭にもきたし、言われたとたん辞めちゃおかな、と思ったけどね。でもこれって自然のなりゆきなのかな、って思ったの。子供じみた言い方だけどね、神様があなたにはもっと合う所があるよって言ってるのかな、って」と言っていた。
怖がりな私は社会に出て、ある時期から“与えられた仕事はきっちりこなす。でも会社そのものには決して執着しない”という自分なりの鉄則を作った。なぜそんな鉄則を作ったのだろう。たぶん、「必要とされない自分」を見るのが怖いからだ。彼女と同じような状態になった時「傷つく必要」をなくしたかったからだ、と思う。

でも、今回色々と話してみて、彼女はそのことを「鉄則」でもなんでもなく、「自然のなりゆき」としてしっかり理解できている人なのではないか、と思ったのだ。そしてそんな風に何があっても静かな心で受けとめることができるのは彼女の裏側にある「デキる女」だけが持つ“自信”でもあるような気がした。

凛としててカッコいいな。

でも、「ステキな人」「目標としたい人」というのは、どうしてこう次々といなくなってしまうのかなぁ。
2001.11.02

〔20〕異動

徐々に秋も深まってきましたが、みなさん体調くずしたりしてませんか。私が今通っている会社は制服がないため、この時期、着ていくものには非常に悩みます。エアコンのせいで夏冬が逆!夏の“長袖カーデ”と冬の“半袖ニット”はもはや私のマストアイテムです。風邪をひきやすくなったのは、会社の温度調節機能が原因なのか、自分の年のせいなのか、わからなくなってきた今日この頃。とにもかくにも1年を通して健康でいたいものです。

うちの部を長年担当してくれていた経理部の松井さんが10月1日付けで人事部に異動になった。

どの会社に行っても同じようなイメージがあるが、うちの会社の人事は非常に暗い。たまたま近くを通っても同じ部の人同士が笑いながら雑談している風景を見たことすらない。

経理という部署も“管理”という括りでは同じようなイメージがあるが、松井さんはとても明るく、若者が多いうちの部では、お兄さん的な存在だった。彼は人望も非常に厚かったため、「松井さん人事なんかでやっていけるのかな」「ひどいよね」「かわいそうだよね」なとみんな同情的だった。

そんなこんなで先日、今までのお礼とお疲れ様の意味をこめてうちの部主催の「送迎会飲み会」をひらいた。

ひとしきりみんなで明るい話しに花を咲かせた後、異動の話しにテーマが絞られた。「オレもそろそろだよ」「所詮サラリーマンだからなぁ。願ってもみないところにとばされるのは仕方ないんだよなー」「オレなんか大阪や名古屋の方に行け、なんて言われたら思い切って会社辞めちゃうね」などとみんな口々に言っていた。

私は派遣だから異動には馴れている。「異動」とは全く別物かもしれないが、契約を切られ、全く別の場所に行くことをあまり悲観してはいない。でもそれは常に短いスパンで考えているからであって、「家族を養い、一生同じ会社で食べて行かなければならない」という重さを持っている男性とは全く違うからなのだろう。

「男の人は大変なんだなぁ」と思いながら、私は4年前に勤めていた会社での出来事を思い出していた。

私はその頃、派遣スタッフとして某飲料メーカーに勤めていた。そこで私達派遣仲間をしょっちゅう飲みに連れて行ってくれる男性がいた。国さんといいう人だった。当時34歳で、妻帯者。のほほんとしていながら、面白い話しが大好きで、常に私達と同じレベルで遊んでくれていた。

そんな彼がある日突然、東京の本社から中国のハルピンの工場に転勤になったのだ。

私達も国さんもショックだった。彼は徐々に語学研修や準備で忙しくなり、遊びに行くことを控えはじめた矢先、色々な噂が耳に入ってきた。

「アイツは出所もわからないような派遣の若い女の子達と遊んでばかりいたからとばされたんだ」「ろくろく仕事もできなかったんだから、いい戒めだよ」「アイツはオレ達と違って地方の三流大学だから仕方ないよな」など、その噂は聞くに耐えないようなものばかりだった。

仲良くしていたメンバーで最後のお別れ会をやった時、私達は彼に何と言葉をかけていいかずっと迷っていた。「ハルピンに行くの嫌じゃない?」そう聞いた時、彼はこう言った。

「正直今は嫌だよ。だけどそれを悲しいこととは思わないんだ。1つの仕事に精通するのも大切なことかもしれないけど、場所を変えて、普通の人では体験できないことをするのも面白いんじゃないか、って今は思ってるんだ」

そんな答えが返ってくると思わなかった私はビックリした。そしてそれと同時にステキな考え方だな、と強く思ったのだ。私が国さんだったらどうしただろう。きっとそんな静かな気持ちで冷静に考えることはできなかっただろう。

その時の国さんの考え方が、手を変え品を変え派遣として働き続ける私の心にしっかり根付いている。

異動でちょっぴり気落ち気味の松井さんに何気なく、その国さんの話しをしたら「すごくステキな話しだね。ありがとう、元気が出たよ。オレもこんなことで落ち込んでちゃマズいよな。」と言ってもらえた。

何の芸も持たない私だけど、色々な場所で働き、色々な人と出会う、それを繰り返しながら、こんな風に役に立てることもあるのかな。元気に飲み続けている松井さんを見ながら、心の中で思わずエールをおくった。

2001.10.25