[51]天国に結ぶ恋・・坂田山心中
第51回
■天国に結ぶ恋・・坂田山心中
♪ 今宵名残りの 三日月も
消えて淋しき 相模灘
涙にうるむ 漁り火に
この世の恋の 儚なさよ
あなたを他所に 嫁がせて
なんで生きよう 生きらりょう
僕も行きます 母様の
お傍へあなたの 手をとって ♪
此の歌は「天国に結ぶ恋」として「大磯の坂田山心中」を唄ったものです。本来こう云う心中事件は大きく取り上げられて、大騒ぎになる性質のものには成らなかったのですが、第一報は昭和七年五月十日の東京朝日新聞に報じられたものでした。男は慶応大学3年の調所五郎24才で、女は湯山八重子22才だったそうです。原因は男の両親は認めていた関係でしたが、女の両親は反対していたようです。
二人は五月九日に大磯の坂田山(実際には八郎山)に枕を並べた男女の情死体があるのを大磯町の吉川と云う20才の青年が発見して警察に届け出たそうです。二人は「昇汞水」を飲んで死んだそうです。そして遺体は大磯山王町の法善院に仮埋葬されたそうです。
此処まででしたら大騒ぎになることはないですね。ところが翌日の夕刊に「女性の死体が盗まれた」と報じられたのです。女性は美人であって、衣服ははぎ取られて裸の姿で消えていた・・と云う猟奇事件に発展してしまったのです。マスコミも大変な騒ぎで日々大きな見出しで扱ったので世の中は大変な騒ぎになったようです。
そして昭和七年には前掲のような「歌」まで出来、そして松竹映画「天国に結ぶ恋」が制作され、女性に川崎弘子、男性に竹内良一(彼は女優岡田嘉子と失踪した)によって公開されたのです。
そして此の死体盗難事件は大磯海岸の船小屋脇の砂地の中に埋められて居たのが発見され、5月18日に犯人、橋本長吉65才(隠亡=火葬場の人夫)が逮捕されたと云います。あまりの美しさに愛撫していたと云います。話ははずれますが、此の女性八重子の姉は昭和2年7月28日に発狂した夫の陸軍中尉に刺殺されたそうです。
此の事件はこれで解決したのですが、「歌」になり「映画」になったりしたので、坂田山は観光名所のようになってしまい、心中ブームにもなって、数年で100人以上の情死者が出たと云います。私も昭和23年頃此の坂田山を尋ねて見ましたが、当時にあったと云う雑木林もなく、何の変哲もない唯の丘陵だけでした。
『筆者注:人の生命は天命によって授けられたものです。ですから自分の命だからと云って勝手にすることは出来ません。従って自殺なんかは天に違逆するものですから、必ず天罰があります。つまり地獄しか行き場所はありません。それに天国に結ぶ恋なんてありません。一緒にはなれないのです。人は生まれる時も死ぬ時も一人なのです。』
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