私が男に送迎をしてもらうようになってから、私の労働時間は増えていった。体力的には厳しいものの働いただけのバイト代は入ってきていたので頑張ることが出来ていた。
そんな生活を暫く続けるうちに、男は私のことを自分の女扱いするようになる。
「オマエは俺のこと愛しているのだろう分かっているよ。」
「オマエは俺がいなくなったら生きていけないだろう。」
「安心しろ、俺はオマエを裏切ったりしないから。」
「オマエは絶対俺から離れられない。なぜなら俺の最後の女になるんだから。」などとよく口にしていた。
今考えれば、よくもまぁここまでのリップサービスが口から出てくるものだと思ってしまうが、男への信用度が上がってきていた当時は「そんなことない」と思いながらも、このような言葉を言われてまんざら悪い気分にはならなかったことを覚えている。でもまぁ、その言葉を最初から鵜呑みにしたわけではなく暫くは軽く聞き流すことにしていた。
しかし、ある日のことだ。店で私がお客さんとトラブルになった。お客の行き過ぎた行動が原因にあるのだが、お客は私が悪いと言って怒り出す。どう対処したら良いか困惑しているところに、ベストタイミングで男が現れた。そして男の力量発揮。紳士な対応でお客を落ち着かせ私を助けてくれたのだ。無論、以後その客は二度と現れることはなかった。
そんな出来事があってからというもの、男を更に信用し頼るようになった私は、彼の女になるのも悪くないかも。と思い始めていたのだ。まぁ、私がそう思うようになったからといってその後の男の対応が急激に変わったわけではないし、私が「貴方の女になります」と宣言したわけでもないので、いつ女なったのかははっきり言うことができない。ただ、その頃から私は何か困ったことがあってもこの人が何とかしてくれるという安心感を手に入れた気分でいた事は確かである。
一歩ずつ忍び寄っていた「アカサギ」という「蟻地獄」に、私はその日から急激に吸い込まれていくことになった・・・安心感という目に見えない信用と引き換えに・・・
早乙女夢乃
カテゴリー: 私は騙され続ける女 -早乙女夢乃-
サギ大国日本。親切そうな男がいい人とは限りません。騙され続ける都合のいい女にならない為にどうすればいいのか。あらゆる悪徳商法に騙され遂には究極のアカサギに遭遇した早乙女夢乃が詐欺師との戦いを綴ります。
[08]信用度アップ計画
立て替えたお金が返ってきたことで、私の男に対しての信用度が上がっていったことを男は悟っていた。というより男は私の信用を得る為に、私にお金を立て替えさせ直ぐに返すという行動を計画的にやってのけたと言う方が正しい表現であろう。当時の私がその事に気付くことが出来なかっただけなのだ。
男の思惑通りに、彼を信用し始めていた私はその日からというもの、男の頼みをある程度受け入れるようになっていた。スーツを買いに行くからとつき合わされた時は、手持ち現金がないからと代金を支払った。某衛星放送の支払期日までに手持ちがないからと代金を支払った。その他にも何かにつけて私に代金の支払いを頼むようになっていた。
なぜこんなにも頻繁に頼まれ事を受け入れる様になったのか。それには理由がある。少し前に、店が忙しくて仕事に疲れ果ててきた私が「店やめたいんです」と男に申し出た。しかし男は「今夢乃に止められては困る。」と言い私を引き止める為にその日から送迎をしてくれるようになった。相変わらず子供をかわいがってくれたり、ご飯をご馳走してくれたり、飲みにも誘ってくれた。常に子供と私のことを気にかけてくれていた男。そこまでお世話になっている、しかも店の経営者の頼み。断ることなどできる筈もなかった。
さらに男は私が断ることが出来なくなるようなひと押しを必ずと言う程やってのける。男の極めつけのひと言「直ぐに返すから。」である。別に極めつけのひと言でもないんじゃない?簡単に断れるでしょう。と思われる方もいるかもしれません。でも、体験したことのある方ならきっと分かってくれる筈です。「直ぐに返すから。」というひと言の威力を。そして、その言葉のみを信じ「経営者だもの、きっと返してくれる…」と自分を納得させ頼まれごとを受け入れる日々が暫く続いたのである。
さて、ここまでの話の中で立て替えたそのお金は返されたのかどうかが気になるところだと思うが、その殆どがおおよそ1週間程度で返されていたのだ。そして、「この人は貸してもちゃんと返してくれる人だ」という事が私の中で定着していくことになった。
早乙女夢乃