[09]リップサービス話術

私が男に送迎をしてもらうようになってから、私の労働時間は増えていった。体力的には厳しいものの働いただけのバイト代は入ってきていたので頑張ることが出来ていた。
そんな生活を暫く続けるうちに、男は私のことを自分の女扱いするようになる。
「オマエは俺のこと愛しているのだろう分かっているよ。」
「オマエは俺がいなくなったら生きていけないだろう。」
「安心しろ、俺はオマエを裏切ったりしないから。」
「オマエは絶対俺から離れられない。なぜなら俺の最後の女になるんだから。」などとよく口にしていた。
今考えれば、よくもまぁここまでのリップサービスが口から出てくるものだと思ってしまうが、男への信用度が上がってきていた当時は「そんなことない」と思いながらも、このような言葉を言われてまんざら悪い気分にはならなかったことを覚えている。でもまぁ、その言葉を最初から鵜呑みにしたわけではなく暫くは軽く聞き流すことにしていた。
しかし、ある日のことだ。店で私がお客さんとトラブルになった。お客の行き過ぎた行動が原因にあるのだが、お客は私が悪いと言って怒り出す。どう対処したら良いか困惑しているところに、ベストタイミングで男が現れた。そして男の力量発揮。紳士な対応でお客を落ち着かせ私を助けてくれたのだ。無論、以後その客は二度と現れることはなかった。
そんな出来事があってからというもの、男を更に信用し頼るようになった私は、彼の女になるのも悪くないかも。と思い始めていたのだ。まぁ、私がそう思うようになったからといってその後の男の対応が急激に変わったわけではないし、私が「貴方の女になります」と宣言したわけでもないので、いつ女なったのかははっきり言うことができない。ただ、その頃から私は何か困ったことがあってもこの人が何とかしてくれるという安心感を手に入れた気分でいた事は確かである。
一歩ずつ忍び寄っていた「アカサギ」という「蟻地獄」に、私はその日から急激に吸い込まれていくことになった・・・安心感という目に見えない信用と引き換えに・・・
早乙女夢乃