[12]私は金庫番

社長となった男は、その日以降私を完全なる金庫番に仕立て上げようと行動を開始した。
「社長にもなると従業員の面倒を見るのがいろいろと大変なんだよ。」とか、「世話のかかる従業員が多くて大変なんだよ。」とか私には全く関係ないと思うような理由付けをして少しずつ私の現金を持っていくのだ。
もちろん私はそういう時、「なんで私が出さないといけないの?」と毎回言うのだが、男はすかさずお決まりの言葉を発する。「俺とオマエの仲じゃないか。」
私は、「俺とオマエの仲ってなによ!」と思いながらもその言葉に酔わされていたのだろう。
男と出会っていろんなやりとりを経てそれなりの信頼関係が築かれていたことに加えて、私もそれなりに男にお世話になっているという後ろめたさとでもいうのだろうか、さらに今まで何度も貸したお金が返ってきた実体験、そして毎回貸してほしいと言われる金額が小額なことで私はついつい「仕方ないなぁ。」という気持ちになりお金を差し出してしまうのだ。
1回1回の金額は小額なのだが、出会った当初と違っていった点がある。まぁ説明せずとも分かっていただけるとは思うが、「現金」そのものを貸して欲しいと言われることだ。
2万円程度の時は比較的すんなりと出してしまっていた私。5万円前後のときはひと言嫌味を言ってはみるもののやはり意外と抵抗無く差し出してしまっていた私。そして10万円、15万円、20万円と、徐々に1回の金額が多くなっていったのだ。
徐々に金額を増やされていった事とその頃には男に貸すことが当然とでもいうかのように平然と私からお金を引き出していくようになった男。そのあまりにも自然な話術からなのか、その頃には私の金銭感覚もすっかり麻痺していたのだ。
今考えれば、これら全ては男の計算通りのストーリーだったのだろう。だからこそ、当初は1回に私から引き出す金額を少なくして徐々に徐々に金額を増やし私の金銭感覚を麻痺させ、呪いにかけるような話術で私からお金を引き出したのだ。
そんなことを繰り返すうちに、少しずつ少しずつ貸し金は積み重なっていった・・・
早乙女夢乃