[08]敗者のジャレゴト

 男は、女を守らなければならないと言うが、あなたがたはいつからそんなに偉くなったのかね。
 なるほど。他人を守るという響きは、いかにも心地よさそうだ。立派なかんじがしないでもない。
それにしても、どうしてあなたがたは決めつけるのかね。状況はつねに動いているというのに、固まった概念が通用するとでもおもうのかね。
 それより、守りたいとおもったほうが、その時々で守ったのではダメかね。そちらのほうが、よほど自然ではなかったかね。固まった概念の強制は、負担にしかならないことを知らないはずがないだろうに。
 守るといえば、レディー・ファーストのことを知っているかね。レディー・ファーストの語源は、ヨーロッパの貴族にあると云われている。貴族の男が、身の危険をかんじたとき、レディー・ファーストを発動していた。毒見をさせるため、このさきが安全かどうか確かめさせるために女を行かせたのだ。
 大事なところを勘違いしてはいけないよ。問題なのは、レディー・ファーストの言語や意味なんかじゃない。シーソーの力関係を読みとる力だ。力関係によって、言語など簡単にすり替えられる。なにしろ言語は、人の道具でしかないんだから。
 だからレディー・ファーストは、女を守ること、優先することになったのだよ。
 男は、女を守るというが、本当にそんなことが可能かね。確かに、腕力のうえでは男のほうが強いだろう。でも、それ以外は?
 そんなものはない。外敵にたいして男が強くつくられていても、みずからの内にたいしては女が強くつくられている。
 もはや、外敵から身をまもる時代は終わったはずじゃなかったのかね。いったい男が、どこの獲物を追いかけ、城をおとしにいくというのかね。
 女は、長生きをする。ストレスにも強い。出血量にたいしても、男よりはるかにタフだ。女は子供を産むために、内面がタフにつくられたのだ。この内面の強さこそが、今の時代にもとめられる強さだ。
 時代は変わったのだよ。
 それでも、男は女を守るのかね。昔、男が守ることができたのは、男にそれだけの特権が与えられていただけのことだ。敗者となった現代の男が、どうやって他人を守れるかね。ルンペンが強がり、俺は金持ちだといってみせたところで、笑い話にしかなりやしないよ。
 男は、実をうしなっている。それでも、虚勢ばかりを吐いている。実のない虚にまみれるより、敗者は敗者として認めたほうが、よっぽど潔いとはおもわないかね。
椎名蘭太郎