[06]アカサギの小道具

次の日、男から預かった1万円を手に頼まれ物を買いに行った。軽く請負ったはいいが、人のものを買うというのは神経を使うなぁと改めて思う。とにかく買い物を済ませ、男に渡そうと店に行った。
男に電話をして「頼まれたものを買ってきました。」と言うと、「今ちょっと忙しいから少し待っていてくれ。」と言われ待つことになる。一時間程待っただろうか・・・男が現れると話し始めた。「ありがとうな夢乃。悪いんだけど頼まれついでに俺の家に行ってそれをセットしておいてくれると嬉しいんだけどな。」そんなことを言われた。
私は一瞬躊躇ったが、ここで拒む理由は何も無かったし拒んだら店を追い出されてしまうかもしれない・・・という予感がした。今店を追い出されたら困る・・・暫くはここで働かせてもらいたいし、居心地良く仕事もしたい・・・などといろんな思いが過ぎり、結局男の頼みを引き受けることにした。
私が「いいですよ」と言うと、男はポケットからさりげなく手を出し私の前に差し出した。手の上には男の家の鍵があった。そう、合鍵だ。その鍵を受取り男の家へ行った。
家族でも彼氏でもない男の家に入るのはなんとも不思議な気分だったが、頼まれた仕事をこなすだけと思えば特に問題はなかった。その部屋は、男が言っていた通り何も無く引っ越してきたばかりの香りのする部屋だった。とにかく頼まれた通りに買ったものを広げてセッティングを済ませ鍵を閉めて店に戻った。
男に鍵を返しに行くと、「鍵はそのまま持っていていいよ。」と言った。私は持っている理由がないと思い「いえ、また必要なときがあったらお借りしますのでとりあえずお返しします。」と鍵を返そうとしたが、一向に受け取ろうとしない。「またいろいろ頼むと思うから持っていてくれ。」と男は言う。そんなやりとりが暫く続き、結局私が根負けしてそのまま合鍵を持っていることになった。
・・・そう、賢い読者の方ならもうお分かりであろう。その日からというもの男は何かと私に頼みごとをする様になったのは言うまでも無い。
早乙女夢乃