プロヴァンス語で「死んだ水」を意味するエイグ・モルトはその名には反しとても生き生きとした自然豊かなところです。パリからTGVでニームまで3時間半、そこからローカル線で45分。車内放送がないので駅名確認要注意。
国立公園カマルグ大湿地帯と地中海、野生のピンクフラミンゴはこの湿地帯に生殖するエビを食べて桃色になるとか。ローヌ川の支流、小ローヌの先にあるこの町は地理的にはプロヴァンス地方にも見えるのですが、元トゥルーズ伯爵領後に政略結婚などの過程を経て王朝時代にフランス領土になりましたが、行政地区としてはラングドック地方になります。ここは世界的な観光地ではありませんが、それでもやはり1,2泊はしたいところです。
この町を世に知らしめたのはルイ9世(聖ルイ)が2回にも及ぶ十字軍を編成し港を作り遠征したからです。十字軍を呼びかけるのは教皇ですが、彼は聖職者なので自ら武器を持ち戦争には行けません。領主が軍を編成し戦うのです。お金も掛かるし兵士を集めるのも大変です。それを2度もやったのですからやはり「あんたはエライ!」と聖人扱いされる功績にはなるのでしょう。
戦う相手は地中海の向こう、北アフリカにいる回教教徒。船で出向くには港が必要です。当時あった港はマルセイユだけ、そしてそれはプロヴァンス伯爵領で仏領土ではない。ないなら作ってしまえとばかし、エイグ・モルトに港が建設されました。当初は灯台の役目をしたコンスタンスの塔のみでしたが、聖ルイの後の時代にその子孫2代かけて城壁が完成して現在の姿になりました。
800年くらい前だったら城壁の側までが地中海だったそうです。その後に土地が隆起して今では一番近いビーチでも1キロ以上あるとか。その頃は免税措置や自由貿易などに集まった住民達により現在とは違う意味での繁栄ぶりでした。
これまで私は他の城壁の町、カルカッソンヌやアヴィニヨンにも行った事がありますが、自分が壁の中にいるんだと強く実感出来たのはこのエイグ・モルトだけです。それだけ狭くまるでマッチ箱の中を歩いている感じです。上記の2ヶ所は城壁が巨大すぎてそれほど実感がありませんでした。日本のガイド本にはディジョン同様にそれほど紹介されていませんが、でも魅力溢れる町なので半日観光とは言わず、滞在しての観光をお勧めします。
夢路とみこ