[209]スイスにて(2)

フランスとスイスの地理的関係を表す時に取り上げられるのはまず、アルプス。それはアルプス山脈がこの二つの国を跨っている事にあるのでしょう。名称もフレンチ側、スイス側と言うくらいだから。それにフランスのドイツ占領下時代にはフレンチアルプスを越境してジュネーブに逃げた人たちも多く、私の留学していたフランスの大学の先輩のひとりにも武勇伝の主人公になった人がいて、Hiding Placeという小説と映画になってヒットしたくらいですから。
しかしスイスと国境を隔てているのは、ドイツ軍による迫害の末越境をした場所はアルプス地方だけではありません。フランシュ・コンテ地方だってそう。余り知られていない事実ですが、スイスの時計産業、とりわけ鳩時計、と上質のパイプはフランシュ・コンテを追われた技術者がスイスに渡り伝授したフランスの技術。
占領下のフランスでは若い技術者男性はみな徴兵に駆り出されてしまい、時計産業もパイプ製造産業も凍結。これらの産業で知られるフランシュ・コンテ地方はサン・クロード村の若い技術者が多く新天地を求め隣国であり永世中立国スイスへと逃れたため、技術はスイスに受け継がれそこで本国以上に開花した。スイスアルプスからの美しく冷たい水が、上質の水をふんだんに使用する時計産業には当りで、スイスはあらゆる面で好条件の「選ばれた地」だったのです。
スイスの有名なハードタイプチーズ、グリエールはもともとこのフランシュ・コンテ地方が発祥の地。グリエールはスイスのコンテと呼ばれていた時代もあったようで。文化的、技術的貢献度からするとこの地方の功績はアルプス地方にも引けをとらないはず。アルプスは高級リゾート、一般庶民のご近所リゾートはフランシュ・コンテだけれども。コンテチーズとグリエールチーズを並べて味わえば、どっちがどっちと思うこともしばしば。ただし、コンテの方が長期熟成をする事が多いので、熟成したコンテと若いグリエールだったら味に差も出てきますが。
そしてこの辺りの冬の名物、チーズ・フォンデューなるもの。スイスとアルプスとフランシュ・コンテ、それぞれが「発祥地」を主張しグリエール、ボーフォール、コンテと核となるチーズにも己と譲らない。私自身、どのチーズでフォンデューを食べてもどれも美味しい。ただ、あわせるワインはやはりその地方のご自慢の白ワインと組み合わせを間違えるとやっぱりイマイチかな。
夢路とみこ
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