パリに引っ越してきたばかりでまだ友達がいないという人にはジムが主催するソワレに行くのが良いかもしれない。とにかくフランスはコネの社会、そして言ったモン勝ちの世界。自分の代わりに代弁してくれそうな、まくし立ててくれるような力強いフランス人の助っ人を2,3人は確保しないとこの国では押しつぶされそう。仕事ではまくし立てる私でも、店とか役所とか反論もせず言われたままにシュンとして戻ってくる。
同居人は「どうして反論しなかったのか、言われたままに帰ってきたのか」と痛いところを更に突く。でも、「フランス語で反論するのはエネルギーを使うのよ、頭が石で出来ているフランス人と議論するのは柳に風よ」と言い返すと、「それだけ言えるんだからどうしてそれをその場で言わないんだ」とまた叱られる。うぇーん、それなら一緒に来て助けてよ!と言いたい。
こうなったら何が何でも助っ人になってくれるフランス人を探さなければ。フランス人はアメリカ人と違い親しくなるのに時間がかかる。お役所関係の問題になるとディジョンからパトロンからいつも出てきてくれる。一社員、それもパートタイム契約の私のために1時間半近くのTGVで上京してくれる、とても有難い。
でも日常生活のトラブルで自分ではどうしたら良いのか想像もつかない時、もし、この大都会パリで頼れる友人もいないままに一人暮らししていたとしたらどうなるんだろうか。ストレスと不安で「パリ症候群」の一つの例に突入してしまうのではないだろうか。
ジムの会は日曜日の夜、皆で集まって一緒にご飯を食べましょう、というお気楽なもの。主催者のジムは作家らしく、家の中はまるで本屋のごとく書籍が山積みになっている。この会はもう10年以上も続いているらしく参加者もお馴染みさんから、パリ旅行のついでに覗きに来た観光客も混じっている。
ジムのお宅はそれほど広くないのに30人以上の人が集まる。夏ならテラスにも出れるけど、冬の今は廊下にも人が溢れてしまっている。会話は英語とフランス語がメインで、集まるのは老若男女。一人暮らしのお年寄りからパリに引っ越してきたばかりの地方出身の人までさまざま。寂しがり屋が皆で暖を取るそんな雰囲気がジムの日曜日のディナーには漂う、ほのかなポカポカした温かみがある。
ジムの日曜日ディナー
夢路とみこ
[231]パリのソワレ(1)
パリには昔からサロンの世界があり、それはブルジョワが文学や音楽を楽しみ語り合うという場所のようだったらしい。でも、このようなサロンはたぶん、今でも16区とか凱旋門からちょっと先に行った高級住宅地のニュイイーに住むブルジョワの中では生きているパリ文化のようです。貧乏だし、芸術にはうとい私だからあまりこの手のサロンにはお誘いを受けません。
友人のジャーナリスト、トモコさんは仕事柄のみならずご当人も文学、芸術、フランス映画に造詣が深いから絵画のヴェルニサーチや哲学サロンのお呼ばれが多いみたい。ソワレと呼ばれるこの集まりはシャンパーニュとお洒落な会話、アヴァンチュールもある、大人の世界。たまに誘ってくれるけど、フランス語で文学、芸術を議論するよりも英語でベンチャービジネスの構想をまくし立てる方が好きな私だからあまりご一緒したことがありません。
仕事の合間に映画「グリース」を見て、M&Mチョコを頬張り、オレオクッキーをミルクに浸して食べるのが大好きな、なんちゃってアメリカンの私がパリのサロン世界に入るのは皆無。でも、仕事柄、そして何よりもコネ社会のフランスで人脈を増やさなければならないのは必須。SOHO勤務の私が人脈を増やすにはやっぱり何とかサロンに潜り込まないと。
パリに住む英語圏の人の為のコミュニティペーパー、FUSSACで「現代のサロン」を発見。幾つかあり、今、それを一つ一つ体験中。サンルイ島で開かれる「パリソワレ」はアメリカ人女性パトリシアが主催する異業種交流会みたいなもの。水曜日と日曜日の夜に開催。両日ともゲストスピーカーによる講演が40分ほどあり、その後、ビュッフェを食べながら意見交換会とかお喋りを楽しむ。
水曜日のそれはビジネス交流会、で、私は主にこれ。ビジネスに関する講演を聞いた後、英語圏、仏語圏、その他の国の人が名刺やアイディアを交換。国連で女性問題を扱う講演者、治療困難で末期をホスピスで過ごす人たちの写真を撮り続けている写真家と精神科医者のサロンでは思わずその壮絶さに私は泣いてしまった。日曜日のそれはもっとフランクに講演者も映画監督、ジャズシンガーなどちょっと日常ではあまりお付き合いのない人たち、それが面白い。
FUSSAC のサイト
パリソワレのサイト
夢路とみこ