[230]パリでごはん(6)

18区のモンマルトル、メトロ駅ラマック・クランクールあたりは今でこそ高級アパルトマンが立ち並ぶお洒落な一角ではあるが、一昔前は売れない芸術家たちが屯し、酒と女に酔いしれるどうも人間臭い町だったようだ。この駅を出てすぐそばにある、ビュット・ド・モンマルトルと呼ばれる幾つかの名物階段の一つを登ると近くにはサクレクール寺院がある。この白亜の美しいバジリカ聖堂は地中海の砂を持ってきて作ったと聞いたことがある。でも本当かどうか分からない、美しいからそう信じておこう。でも、そんな事はどうでも良いとして、このパリで有数の観光地で安くて、美味しくて、そしてなんと言っても「パリっぽい」という食事の場所を見つけるのは大変。
私がこの駅の界隈に来る理由はやはり何と言ってもシャンソニエの名店「ラパンアジル」へ行くこと。この店については本通信69号で紹介したので今回は控えますが、でもパリに来たら是非ここでパリの哀愁を味わってもらいたい。夜がラパンなら昼はサクレクールの周辺やビュット・ド・モンマルトルの階段廻りの散策を楽しむことかしら。つい先日もここをぶらぶらしていてお腹が空いたので財布に相談してみたら、ちょっと悲しかった。
キュンキュン泣く胃袋とうるうるしたお目目を天に向けたら、このメトロ駅の前にRefuge「難民」という名前のおやじカフェがあるではないか。今の私にぴったりの店、テラスでランチを食べている人がいるけど結構美味しそうな一皿、ふむふむ、ランチメニューは10ユーロ前後、このモンマルトルでこの値段とは本当に「難民」を救うような値段だこと。
カウンターで管を巻くおやじを掻き分けて中に入る。手書きの黒板に書かれているミミズの象形文字を解読すると料理が家庭料理であることが分かる。常連が多いらしい。パリを「食べる」という目的で遊びに来るときには、ぜひこんなお店で食事をしてもらいたい。人間臭さ、パリの下町臭さが堪能出来るから。いつも仕事でお食事にお付き合いくださいというのを受けて、素敵なお店や人気のお店に案内するけれど、たまにはこういうおやじカフェ散策ガイドの仕事も来ないものか、と思っちゃった。
Le Refuge
72 rue Lamarck tel 01 42 55 27 58 休みなし
メトロ駅: Lamarck Caulincourt下車目の前、緑のひさしに黄色の文字で店名があり、まぶしい
夢路とみこ
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[229]日本の技術は世界の驚異

パリで家具や室内装飾をテーマとした大きな展示会があり通訳として派遣された。私が担当したのは高知県の間伐材木を使用して、特殊な技術と加工を施したバッグを中心としたアーティストの作品。ここで仕事をするまで、日本が木の文化だという事に全く気づかないでいた。いつもアジア=竹のイメージだから、日本も竹だ!と勝手に思っていた。でも、日本は東南アジアに比べるとその湿度は少ないから竹じゃない。中国の政策を「竹のカーテン」と呼ぶから、かぐや姫も竹だから、だからと言い訳を。
この機会を通じて日本が木の文化であることを知るとともに、海外から見た日本のイメージはきちんと進化している、現在の日本を知っている人は知っている、もう、ゲイシャ、フジヤマなんて古臭いことを言うのは時代遅れである、ということを確認出来た機会でもありました。
それにしても、日本の技術はすごい。展示していた作品の中に、製作者のアーティストが「モナ王」と呼ぶ最中の形をした変わったテーブルに人々の関心が寄せられた。芸術に疎い私にしてみれば「変なテーブル」でも、その価値が分かる人にしてみれば究極のデザイン。みんな触る触る、ためらいながら、はにかみながら、見ていて面白い。
来客は量販店から小売店のバイヤーを中心に、同業者であるデザイン関係の人や建築家、週末も挟んでいたので一般客も来ましたが、その反応は手ごたえあり。作者であるデザイナーが自ら出向いて接客したことも大きいのでしょうが、彼の持つ技術が驚異だったのでしょう。
語学もそうですが、私たちはいつも外にばかり目を向けていて、灯台元暮らしになっていませんか。外国語を学ぶことに熱心すぎて、国語がおろそかになりつつあるのは私だけでないはず。海外ブランドばかり追いかけてジャパンブランドの素晴らしさを見落としている資本家は日本にごろごろいるのでは。
接客で色々な国のデザイナーや技術者、バイヤーと話しているうちに「ジャパンブランド」の底力を感じました。海外のバイヤーは知っている、日本の海外ブランドのバイヤーと同じくらい鋭い感覚で。知らないのは海外在住で日本の情報が疎い私や、海外流行に翻弄される人かもしれない。
自らの才能に甘んずることなく、いつも目は外へそして高く向いていた、そんな日本人に会えた貴重な時間でした。
日本の驚異、ここのサイトでご覧下さい
http://www.t-shima.com/
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