[218]私のわらじは多足かな(2)

ディジョンで船の仕事だけをしていた頃は多足だった。マーケティングからクルー業務まで一括してこなす能力を求められた。5年半の間に得たさまざまな経験と学習がパリに来て仕事の幅を広げる機会をもたらした。
パリに出て来て、まず勤務先の船会社が変わった。元の古巣に戻り、昔の上司と仲間達と一緒に一旦倒産した会社の建て直しに関わっています。新しい雇用条件はかなり厳しい。最低賃金と歩合のみ、この給料ではパリで家賃さえも払えない。パリで追加に別の仕事をしたいけれど現在保有の労働許可証がブルゴーニュ限定のため、パリの企業では就職が出来ない。上司は何度もパリに来て労働局と掛け合ってくれ、会社の弁護士も動いてくれたけどEUの拡大で移民が多すぎるパリでは許可証の書き換えが不可能に近い。
もう駄目だ、と思ったときに縁があって日本の食品輸入会社の仕事を手伝うことになる。ここの社長とは数年の付き合いで、私が大食漢で多少なりにも食材に関する知識があることに興味を示してくれたようだ。船のシェフとは仲良しでいつも料理や食材について教えてもらったことが幸いしている。その仕事のためにチーズを探したり、生ハムを試食しまくったりと貧乏ながらにも美食に預かれる。この社長の好意でブログをもたせてもらうことになりました。ブルゴーニュ通信局が文章でフランスの魅力を紹介なら、こちらは写真中心で魅了します。私はカメラ小僧でデジカメお嬢。事情があって来たくても来れないフランスファンのために、本通信局と私のブログ「西欧食文録」で私のご近所さん気分を味わってもらいます。
そして、ブログはもう一本。こちらは仕事の延長にある訳でなく、単にサイトオーナーのご好意のみ。福岡にある輸入雑貨店でフランスに精通している方がフランスの地方の魅力をブログにしないかとお誘い頂き、プッツン、プッツンと入稿に切れ間があるけれどもこの国の魅力をもっと掘り下げて、さまざまな視点から紹介しています。
今は船の仕事、食の仕事、ブログのライター、旅行企画手配、現地アテンド、アパルトマンホテル等のマーケティングと「多足」どころか「タコ足」状態。全ての基本が「フランスが好き」にあります。
フランス便り
私のわらじは多足かな
夢路とみこ

[217]ミルクハンター報告(1)

モンパルナス界隈はシックなアパルトマンが多くハイソな感じがします。その昔、芸術家達は貧乏な頃は右岸のモンマルトルに住んで、成功したら左岸のモンパルナスへと引っ越したとか。また哲学者、ジャーナリスト、インテリ系が集まるのもモンパルナスだとか。そんなモンパルナス界隈、メトロ4番線Vavinヴァーヴァン駅すぐ前にあるカフェ、Le Domeル・ドームはミルクハンターの私が一番気に入っているお店。
1杯4ユーロのミルクを高いと思うか、安いと思うかは皆さん次第。でも、その雰囲気と洗練されたギャルソンの配膳、ベルエポックをふんだんに味わえるアールデコ風のインテリアに私はいつも酔っています。ミルクが飲みたくなったとき、ちょっと疲れたとき、ハイソな気分にひたたりたいとき、私がこの店に行きたくなる理由は幾つもあります。でも、ここに来るたびに「パリに移ってきて良かった」と思わずにはいられません。たった4ユーロでひと時の幸せが買えるようなものだから。
パレ・ロワイヤル広場の一角、モンペシエ回廊とも呼べる画廊や高級レストランが連なる場所に私をときめかせるお菓子を出すカフェがある。どちらかというと辛党で、甘いものはそれほど食べないのですが、時々甘いものが恋しくなることも。その店、ムスカードは外を通る人たちを巧みにその美味しそうなお菓子で人を釣っている。西洋菓子と一緒にアラブ系菓子も置いているけれど、やはり洗練された場所に相応しく味も見かけも贅沢。またこの店に足を向けたくなる理由が「ミルク」おいしんだなぁこれが。店内のインテリアもちょっとエギゾチックで好きなんだけど、とにかくミルクとお菓子に誘われる。4ユーロのパラダイス。
極めつけがメトロ駅7番線Jussieu ジュッシュー駅前にあるおやじカフェ、Relais Jussieuルエ・ジュッシューのチーズプレート12ユーロ。チーズの盛り合わせに好きなグラスワインが1杯ついての値段だけど、メニューを読むだけだとこんなものが出るとは想像もつかない。チーズは山羊、牛、羊とバランスよく3種類のミルクで作られたものがそれぞれ。トム・フレッシュという山岳地方の郷土料理に加熱して出るチーズがスライスされて。山羊のチーズは軽く火を通しているけれど、その具合がなんとも言えない。外皮を破ると美味しさがよだれのように流れ出る。とにかくミルクハンターとみこの採点は20点満点。
夢路とみこ
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