[100]労働許可証への道(3)

1年間の無給インターンを経てバイト採用に変わり、会社がアシスタントマネージャーの名目で正規申請したのは2年半が過ぎてから。名刺の肩書きだけは立派だけど許可証がないから給料はバイト代のまんま。その収入は金融業界の5分の1、日本で派遣してた頃の3分の1。でも仕事の満足度は今までの10倍。
申請から半年後一度却下されました。すぐさま社長と人事担当者が2回も県庁へ交渉へ行きやっと申請が通りました。1回目の交渉時には私が起こした会社の日本語資料を持って、2回目は私が来てからの日本市場の売上げという具体的な数値を以って私の不可欠性を説きました。既婚などで在住日本人がいるのに何故私なのかを突く県庁案を覆すには私の存在が会社に有益である、即ち仏経済にプラスであるロジックが必要。

私のところに来る就職志願の日本人学生は多くディジョンや日本で時々会います。どうしてフランスで働きたいの?『フランスが好きだから。』ではフランス人と結婚するのが一番確実でしょう。好きな人と好きな国に住めるなんて理想だわよ。仕事はどんな事がしたい?『何でもします』本当?私の仕事はマーケティングだけど船に乗る時は皿洗いも便所掃除もあるわよ。ところで技能として何が出来る?『フランス語が得意です』語学は手段であって武器にはなりません。とこんな問答がいつまでも続きます。やはり日本で一度きちんと就職してそれなりの業績やキャリアを積んでからでないと海外就職、特に地方の現地企業は難しいとお考え下さい。
県庁から許可証を出すから×月×日に出頭せよと通知が来た。大喜びで知り合いにお寿司を注文。社員20名に私からの大盤振る舞い。この日のためにと日本から持参した一升瓶をも出しての出血大サービス。朝県庁へ行ってお昼に皆で酒盛りと極楽絵巻を頭に描きルンルンで窓口へ向かうと「引き換えの書類が一部足りない、また来週おいで」という。許可証は目の前にあるのに。落胆したままお寿司を持って帰社。取りあえず物は見たからと予定通りの酒盛り。
翌週書類を揃えて行ったら「あんたの許可証資料見当たらなくなった。明日までに探すからまたおいで」とけんもほろろ。そして運命の日、祈る思いで窓口へ。「待たせて悪かったね。ホレ、ここにサインして」と署名し入手。涙がポロリ。この紙一枚のために3年半、短いようで長かった。その夜、亡くなった母の写真に語りかけながらひとりウッシッシと晩酌、まるでオヤジのよう。

夢路とみこ

[099]労働許可証への道(2)

会長と社長が日本市場に目を向けたのが1990年頃、きっかけはディジョンに急増した日本人観光客を見て。「日本人はフランスが好き、イコールうちの船旅をも気に入るはず」ととても安易。
ここにたどり着くまで会社として10年以上の歳月が過ぎ。90年から2000年までは日本市場にて手探りで開拓を試みた。あまりにも手応えがないので日本人を採用する事を考えた。でも、会長も社長も日本人なんて見た事はあっても話したことはない。採用したくてもどうやって探す?海の物とも山の物とも分からないのが来てきちんした仕事が出来るの?無駄金にならないのかなどの押し問答の末インターン採用案にたどり着く。半年後に送られてきたのが私。
海外就職の必須条件として商業レベルの英語力があります。これは会話のみならず筆記も含む。現地語よりも英語力を求められるのは仕事である以上社外との交渉事も多く外国人をわざわざ採用するような会社はそれだけ外国人とのやり取りも多いのです。会社を代表して公の場に出たり、上司の代筆でレターを書くのに英語が日常会話程度や俗語交じりの学生英語では会社の面目丸つぶれ。出国前に矯正しましょう。

米国留学当初、発音が悪すぎて私はいつもほぼ無視状態。見かねた教授がスピーチコースへ送りここで発音の矯正を受け現在では英国英語が主流の社内で一人米国英語丸出しの私です。大学卒業後、最初の職場となったスイスの上司は「○○じゃん」的な私の学生英語に腹を立て「誰だお前に卒業証書を出したのは、そんなものつき返して来い」と言ってました。発音矯正と敬語、商業レベルの語学学習は日本にいても、独学でも可能です。是非頑張って下さい。
ディジョンへの日本人観光客増加だけで日本市場の開拓を考えつくこの会社に緻密な数値を分析し、想定に想定を重ねて準備に余念のない金融業界から移ってきた私にとって、3度目の海外就職とは言えどそこは未知の世界。天と地が逆転するような出来事は日常茶飯事。最近ではもう驚くこと自体に疲れました。
私の海外生活そろそろ合計で13年目。海外へ出ることにお目目キラキラのあの頃からするとかなり悪知恵も着いて来ましたが最近になって分かってきたこと、「なめたらイカン、なめられたらイカン」ということ。真摯な態度で暮らそう。ある本にこう書いてあった「まだ見たことのない明日は毎日やって来る」なんて素晴らしい言葉だろう、これを噛み締めて今日も頑張ろうと思うのです。

夢路とみこ