[099]労働許可証への道(2)

会長と社長が日本市場に目を向けたのが1990年頃、きっかけはディジョンに急増した日本人観光客を見て。「日本人はフランスが好き、イコールうちの船旅をも気に入るはず」ととても安易。
ここにたどり着くまで会社として10年以上の歳月が過ぎ。90年から2000年までは日本市場にて手探りで開拓を試みた。あまりにも手応えがないので日本人を採用する事を考えた。でも、会長も社長も日本人なんて見た事はあっても話したことはない。採用したくてもどうやって探す?海の物とも山の物とも分からないのが来てきちんした仕事が出来るの?無駄金にならないのかなどの押し問答の末インターン採用案にたどり着く。半年後に送られてきたのが私。
海外就職の必須条件として商業レベルの英語力があります。これは会話のみならず筆記も含む。現地語よりも英語力を求められるのは仕事である以上社外との交渉事も多く外国人をわざわざ採用するような会社はそれだけ外国人とのやり取りも多いのです。会社を代表して公の場に出たり、上司の代筆でレターを書くのに英語が日常会話程度や俗語交じりの学生英語では会社の面目丸つぶれ。出国前に矯正しましょう。

米国留学当初、発音が悪すぎて私はいつもほぼ無視状態。見かねた教授がスピーチコースへ送りここで発音の矯正を受け現在では英国英語が主流の社内で一人米国英語丸出しの私です。大学卒業後、最初の職場となったスイスの上司は「○○じゃん」的な私の学生英語に腹を立て「誰だお前に卒業証書を出したのは、そんなものつき返して来い」と言ってました。発音矯正と敬語、商業レベルの語学学習は日本にいても、独学でも可能です。是非頑張って下さい。
ディジョンへの日本人観光客増加だけで日本市場の開拓を考えつくこの会社に緻密な数値を分析し、想定に想定を重ねて準備に余念のない金融業界から移ってきた私にとって、3度目の海外就職とは言えどそこは未知の世界。天と地が逆転するような出来事は日常茶飯事。最近ではもう驚くこと自体に疲れました。
私の海外生活そろそろ合計で13年目。海外へ出ることにお目目キラキラのあの頃からするとかなり悪知恵も着いて来ましたが最近になって分かってきたこと、「なめたらイカン、なめられたらイカン」ということ。真摯な態度で暮らそう。ある本にこう書いてあった「まだ見たことのない明日は毎日やって来る」なんて素晴らしい言葉だろう、これを噛み締めて今日も頑張ろうと思うのです。

夢路とみこ

[098]労働許可証への道(1)

ディジョンに来て駆け足3年半。やっと最近になって正式な労働許可証が下りた。それを手にした時、あまりの感動とこれまでの道程を思い出して思わず目がうるうるしてしまった。海外就職するのはこれで3回目。でも許可証入手でこれほど感慨深かったのは初めてです。
そもそも私がこのディジョンのクルーズ会社で働くきっかけになってのはインターンシップという企業研修プログラムです。米仏と2つの大学に留学しスイス、香港と2カ国で就職したけれど、でもインターンシップを利用しなければ再び海外就職にありつけなかった理由はただ一つ海外は「プロフェッショナル」しか雇わないということ。つまり希望職の経験があることはもとより、外国人を雇うだけの価値(つまり会社に収益をもたらせる)がないとはなから相手にもしてくれません。
今回の就職口にはどうしても古巣である金融業界は避けたかったので未経験の業種に入るにはもうインターンしかなかった。これなら企業研修だからなんとかなったのです。

30代も半ばに入り派遣の仕事に限界と将来の不安を覚え、以前から興味あったワインの世界を求めインターンに参加。希望職種、特になし、希望派遣地、ワインが飲めるとこと大の大人が馬鹿丸出しで面接にそう答え登録から半年後銘醸ワインの産地ブルゴーニュに到着。来て驚異だったのはうちの会長と社長の大胆さ。
祖国イギリスで大手情報会社の記者を経てバージ(船生活者)となりネローボートと呼ばれる細長い船でイギリス運河を巡っていた会長は、それを案に1996 年これをホテルバージ(滞在型観光船)の会社を興しフランスへ乗り込んできた。パリの大手雑誌社で社会派記者をしていたうちの社長、記者時代に知り合った会長の新事業にクルーとして入社。バスドライバーや船長の仕事を経て社長へ。
うちの副社長の船好きもこの二人に負けていない。ディジョン運河公園に自分の船を碇泊し、そこの家族4人で住んでいる。ヴァカンスはもちろん家であるその船でお出かけ。幹部の一人も20年来の船舶業界と船好きがこうじて最近自宅用の船を購入し運河公園へお引越し。運河公園の一部は弊社の船で占めています。
クルーの多くも船を所有している人が多い。私もこの会社に派遣されてすぐに船の虜になりました。船旅が好きだから多少の問題点もなんとか乗り越えられるのです。でもうちの社長は無類の電車好き。日本へ行くと必ず新幹線に乗りたがる。かなり感動したらしい。

夢路とみこ